SONG NOVEL

□音のない森
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僕は歩き出した。

わずかに零れる
月の明かりをたよりに


そこには何もなく
ただ孤独だけが
たちこめていた。



白い冬も
青い夏も


誰にも知られず
そっとふみだす…


見馴れない景色に
辿り着いた時


そう…
この深い森に
迷いこんだとき


初めて
《恐怖》というものを
思い知った。


暗くしめったままの
この森は


僕の
苦しくて叫ぶ声さえも
吸い込み
とどかない…


必死で
もがいた…

救いを求め
天を仰いだ…



ここには
先を記す地図はなくて


帰り道も
わからない。


そしてふと
気づいたことは


旅は《未来》という
終わりない
ものであって


足元を見渡せば
そこには無数の足跡…


ここは誰もが通りゆく
場所だと知る


それと同時に
ただの未来への
通過点でしかない事にも
気付く。



恐ろしくなり
身をかがめ泣いていた。


音のないこの
深い森におびえながら



『音がないのならいっそ…』と
耳を塞いでみる。


するとどこかで
かすかだが
確かな鼓動が聴こえた。


僕等は歳をとる。
歳月は流れ
色々と変わっていくのだろう…



だけど
過ぎゆく時間にも
移る景色にも
変わらないものがある



僕等はここに存在し
呼吸を止めず
必死で生きているんだ…



月の明かりが
僕を照らし

僕は再び歩きだす


相変わらず
辺りは真っ暗で
《孤独》に満ち溢れてる


先はまだ
果てしなく長いけれど


ぬけだそう
陽のあたる場所へ…

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