ルルーシュ誕生記念















寒いな、そう思いながらマフラーに顔を埋める。まだかまだかと待ち人が来るのを待つが、なかなか現れないことにルルーシュは目を伏せて溜息を吐いた。
その時頬に冷たいものが当たって空を見上げると白い小さな塊がゆらゆらと落ちてきている。あぁ、雪が降ったのかと思い、手を前に出してその上に落ちてとける瞬間をぼんやりと見つめる。
「ルルーシュ」
その時に聞こえた声に寒さも目の前で溶けて消える雪の存在も忘れる。そして顔を上げ、少し文句を言ってやろうと思い微笑んだ。
「遅いぞ。スザク」
「ごめんね。…仕事が長引いちゃって」
「…仕方ないな」
そう言って呆れたように笑うとスザクは申し訳なさそうに眉を下げた。
「いや、いいよ。行こう」
そう言って歩き出すと、手に温かな温もり。スザクを見ると照れたように笑っていて。
「こうすればあったかいでしょ?」
「…恥ずかしいやつ」
「いいの。僕が皆に見せつけたいの」
「…馬鹿」
赤くなる顔をマフラーに埋めて隠す。隣にいるスザクが見てくるのがわかったけど気付かない振りをした。それにもまたスザクはクスッと笑って。
「ずっと、こうしていられたらいいね」
ギュッとスザクに手を握られる。幸せそうに言うその言葉に、ルルーシュは虚ろな返事を返す。
もし失ったら。そう考えたら怖くて幸せな未来のことなど話せそうになかった。だから今この時、そして楽しかった幼き日々を閉じ込める様に、少し瞳を伏せた。
スザクは微笑みながら自分の隣で歩いて色々な話をしてくれる。自分はアスファルトを意味もなく足で撫でながら答えを探し、幸せな未来をただ単純に考えられない自分に腹立ち唇を噛んだ。
暗い中、周りを照らすネオンはクリスマスが近いこともあり綺麗だった。そこに雪が零れ、まるで暗号みたいだと苦笑する。
スザクはルルーシュがはっきりとした返事をしなくても問いただすことはしなかった。ずっと、しないでほしいと思う。だって問いただされた時、全てが壊れてしまう気がするから。
交差点ホールで立ち止まる。様々な人がいる。きっと、一人一人色々な傷を抱えているのだ。自分だけじゃない。スザクも、そして名も知らない人も。
優しい世界になればいいなと思った。ナナリーが望むそれ。ナナリーが望むなら、それが自分の望みだから。そう想い微笑む。様々な傷が踊る、この場で。

今この時


愛へ恋 焦がす






「綺麗だね…」
そう微笑みながら初めて言われた時、柄にもなく胸が高鳴って。震える手を伸ばして口付けをした。
愛が時代に塞がれて、声が届かなくなるかもしれない。スザクにいくら愛してると、名前を呼んでも彼は答えてくれることがなくなるかもしれない。だけど、たとえ孤独になっても、自分は微笑む。いくら君に銃を向けられることがあっても、微笑もう。だけど自分はそんな笑顔じゃなくて、孤独から立ち直った時に咲き誇る笑顔をスザクにあげたい。
本当に愛しているから、全ての愛情を与えても後悔はしない。
「愛してる、スザク」
そう言ってルルーシュはスザクの肩口に顔をうずめて、微笑んだ。





「ルルーシュ、どうしたの?」
「温かい」
「え?」
「体温。温かくてとても、気持ちいい」
そう言ってルルーシュが微笑んだ。それに見惚れていると気付いたのかルルーシュは恥ずかしそうに顔を逸らし、シーツに包まってしまった。その仕草がとても可愛くてまた笑う。この時間がスザクは好きだった。
「ルルーシュも温かいよ」
「そうか?」
「うん」
ぎゅっと手を握る。手だけは出しているんだからとスザクは緩む頬を抑えられなかった。その手を自分の口元にもっていき、ちゅっと口付けを落とす。
「とても、温かい」
普段は体温があまり高くないルルーシュだが、情事のあとは体が火照っているのか温かい。自分の体温も奪っているのかな、と思ってルルーシュの手にスザクは自分の指を絡ませた。そうだったらいいな、なんて思いながら。
「ルルーシュ、雪まだ降ってるね」
「そうだな」
「明日には積もるかもしれないよ」
そう言ってスザクはルルーシュを抱きしめた。シーツは邪魔だったから一回ルルーシュからはがし、自らもその中に入る。
「凄いね。とても綺麗」
「雪か?」
「うん。…まるで暗号みたいだ」
そう言うとルルーシュは驚いたように少し目を見開いていて。
「俺も、そう思ったよ」
「本当!?」
「あぁ」
ルルーシュはふわっと、優しい笑みを零す。その時、カチッという音がして日付が変わる。
スザクはルルーシュに接吻した。
「誕生日おめでとう!ルルーシュ」
そう言うと目の前の綺麗な顔の瞳が驚いたように開き、そして嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
その言葉にスザクも笑う。
「一番に言いたかったんだ。ごめんね。今日無理言って」
「馬鹿。俺も会いたいんだからいいんだよ…」
顔を少し赤らめて言う彼に対しスザクは目元を緩めてルルーシュの頬を撫でた。



隣で眠るルルーシュを起こさない様に絡めていた手を外し、窓の外を見る。そこではまだ雪が降っていた。だけどそれも夜が明ける頃には止み、空に還るかのように舞っている。スザクは隣で静かな寝息をたてて眠っているルルーシュの髪を優しく撫でる。その時ぽつぽつと、涙が零れて来て。
何故泣いているのかわからなかった。だけど、ルルーシュと居る時の夜はとても鮮やかで。いつも思うことは愛しいという強い感情だけど、全てが一度きりのものだった。一緒にいる度に強くなっていくこの感情。それはルルーシュも同じだと思えることがとても嬉しくて。
「ルルーシュ」
感じるんだ。君に愛されているって。君が愛を注いでくれているって。それはとても自分にとっては幸せなことなのだけど、ルルーシュにとっては不安なことなのかもしれない。ルルーシュは、自分の幸せを望まないから。
「誕生日、おめでとう」
君が生まれて来てくれて本当に良かった。君と会えて本当に幸せだよ。


一緒に唱えていこう。幸せな時を。優しい、時を。























朝、目が覚めて隣を見るとスザクがいなかった。出て行くなら声をかけてくれればいいのに、と思い溜息を吐く。目覚めて隣にスザクがいたら、それだけで幸せになれるのにと思い自分で思ったことになんてくだらないことを思ったんだと首を振る。
制服に着替え、窓の外を見る。
「綺麗だな…」
一面の雪景色。それを見て昔、スザクと雪だるまを作ったことを思い出し、微笑んだ。
「まるで、銀世界だ」
そう呟いて朝食を食べに行く。するとそこにいるのは咲世子だけで、ナナリーの姿がなかった。
「ナナリーは?」
「今日は特別な日だそうで…」
そういって彼女は微笑む。その笑みが優しくて、ルルーシュも微笑み返した。
「今日は何かあったかな…」
呟いて、ルルーシュは窓の外に広がる銀色に埋まった世界を見た。


廊下を歩いて、生徒会室の前に行く。静かだったので誰もいないのかなと思って開けると、パァン、という音が響いたのでルルーシュは驚いて目を開いた。
「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」
「…え?」
「おめでとうございます!お兄様」
ナナリーに手を握られ、あぁ、そうかと思う。そうだ。誕生日だ。
周りで微笑む皆に少し泣きそうになる顔を見られない様に一回伏せて、ルルーシュは笑みを浮かべて顔を上げた。
「ありがとう」





ルルーシュが嬉しそうに笑っているのを見てスザクは微笑んだ。みんなもルルーシュに喜んでもらえて嬉しくて楽しそうに笑っている。
ナナリーの笑顔、みんなの笑顔。ルルーシュが一番好きなもの。これをプレゼントできて良かった。そう思っているとルルーシュと目が合う。そして彼は満面の笑みを浮かべるのだ。

とても、愛しい。




























銀色 暗号
          愛は永久に響く

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