長編小説

□夢幻、その先にあるもの
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撃たれた脇腹が痛かった。とめどなく血が溢れ出る。ルルーシュが通った後には点々と血の跡があった。だけどそれよりもナナリーのことが心配で。崩れ始めた洞窟の扉に手をあてると自然とそこが開いた。
スザクとカレンはもうどこかにいった。結局、そうだったのだ。スザクにとってもう自分は憎む存在でしかなく、自分のあの愚かな執着は一方的なもの。親友だと思っていたのも自分だけかもしれないなとルルーシュは自嘲気味に笑った。
カレンも自分を憎むだろう。利用していた。確かにその通りなのだ。黒の騎士団は自分にとっては駒でしかなく、何の感情移入もしていない。そう思っていたが、今思うと結構頼りにしていたのだろうとも思う。
すべてがもう、遅いのだ。
何を思ってももう遅い。すべてもう自分の手からすり抜けていく。だけど、ナナリーだけは…。例え自分がその側にいなくとも、さっきスザクが言っていたじゃないか、ナナリーは俺が、と。護ってくれるということだろう。それなら安心できる。だって親友が自分の愛しい妹を護ってくれるといっているのだ。
白い光の中を歩く。いきなり出てきたのは宮殿のような場所。何故このような場所に出たのだろう。
視線を前に向けると、愛しい妹が血を流して倒れていた。





静かだった。いままでの戦いがまるで嘘だったように。本当に、嘘だと思いたかった。
スザクはアッシュフォード学園に居た。ランスロットは学園の外においてある。
「ニーナ、降りてきなよ。もう、戦いは終わりだ」
憎しみに支配されているニーナ。この連絡をミレイから聞いていた。そして、ルルーシュが居ないと彼女は本当に心配していたのだ。自分も心配していた。危ないことに巻き込まれていないかと。だけど違う。その想いすら裏切られた。自分だけじゃない。ルルーシュを心配している人はたくさんいたのだ。
何故ルルーシュは、こんなにも大切にしてくれた人達を裏切ったんだ。
でも彼はもうすぐ死ぬだろう。出血が酷かった。もう、助からない。そのことに何故か胸を占めていたものがなくなる様な錯覚を起こす。ルルーシュが占めていた心の大部分の感情。それがなくなってしまったみたいだ。
「でも、わたしは、ゼロを!」
「もう、ゼロは居ない。降りるんだ。爆弾を解除して。早く、話したいことがある」
ニーナは暫くすると降りてきた。ミレイたちがその近くに近寄る。伝えなければならない。真実を。
「ゼロは、ルルーシュだった」
崩れ泣く音がスザクにはえらく遠く聞こえた。







カレンもアッシュフォードにいた。仲間の元に行き、崩れ落ちる。皆がその側に駆け寄ってきた。カレンが探しに行ったはずのゼロの姿が近くに見えず、慌てだす団員の姿に本当に自分たちは彼を頼っていたのだとぼんやりとおもった。
「おい!ゼロはどうした!ゼロは!?」
皆が口々に言う言葉をカレンは呆然と聞いていた。
「ゼロは、きっと死ぬわ。だって、あんなに血が流れていたもの」
その言葉に玉城が激昂する。
「お前はゼロを置いてきたのかよ!ゼロは俺たちを見捨てたのか!?」
「そうよ!所詮、ゼロに…ルルーシュにとって私たちはただの駒だったんだわ!日本の独立なんてどうだっていいのよ!」
そしてカレンはまた泣いた。涙が止まらなかった。そんなカレンに話しかけるものは居なかった。
ただ、その言葉の真実を問い質したかった。




気付いたら、アジトの近くにいた。だから走った。ナナリーを抱えて。アジトの中なら医療器具がある。
ただ、この子を助けるためだけに走った。
仮面がないのなんて気にならなかった。もう、そんなことどうだって良かった。
アジトに入ると、藤堂と四聖剣、他にも数人のメンバーが居る。ルルーシュを見つけた途端、目を見開いた。
「お前は誰だ!」
「まて、この服、ゼロの…」
「じゃあ、こいつが…?」
目の前に立ちふさがる奴らが邪魔で、ルルーシュはそいつらを振り払おうとした。
「待てよ!お前いままで…」
「どけっ!」
杉山の言葉を遮りルルーシュは怒鳴った。早く早くと気持ちばかりが焦る。
「頼む!退いてくれ、この子が、死にそうなんだ。頼む。助けたいんだ」
口の中に血の味が広がる。周りの音が、聞こえなくなった。




「いやぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁあああぁ」
その声で目が覚めた。気絶していたことにルルーシュは自己嫌悪に陥る。
「ナナリー!」
隣のベッドを見るとナナリーが泣き叫んでいた。そとなり隣には千葉が居る。
目が合うと、千葉は首を横に振った。その行為が意味することに、ルルーシュは気付きたくはなかった。
「ナナリー?どうした?大丈夫、俺が近くにいる。大丈夫だから…」
左目には包帯が巻いてあった。そのことに安心する。
「お兄様…」
ナナリーの呟くような声。千葉はもうどこかに行っていた。
「なんだい?ナナリー」
「私を殺したのは、スザクさんです」
何を言われているのか解らなかった。
「何を、言っているんだい?ナナリー。お前は生きている。死なないよ」
「いいえ。お兄様、ちゃんと聞いて下さい。私を殺したのはスザクさん。わたしはあの方を、憎んでいます。だから、お兄様、あの方はお兄様の敵。殺して構わないんです。私がスザクさんを好きだと思っていたのでしょう?だから殺さなかったのでしょう?私が、愛してるのは貴方だけです」
ナナリーの腕がルルーシュの首に回る。唇に温かく、柔らかいものが当たった。
「ナナリー…」
「愛しています。お兄様。私はお兄様の妹で幸せでした。お兄様が隣に居てくれる世界が、私にとっての幸せな世界です」
腕の中に居るナナリーの体から力が抜けた。それが信じられなくて。
「ナナリー、もうすぐ幸せな世界になる。だから、目を覚まして…。俺も側にいる。ずっと、絶対居るから。お前の目が開く頃には、幸せな世界に…」
言葉が続かなかった。
息が詰まる。世界からすべて失ってしまったみたいだ。涙が出ない。流し方を忘れてしまった。
すべて奪ったのは、スザク。
お前が、ナナリーを護ってくれると思っていたのに。
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