小説 他

□正体を見せてください
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敵のマフィアなんてすぐ殺す。いつもだったらそうなんだけれども。

目の前で今から殺されそうになっているのに酷く整った顔で妖艶に、でもどこか寂しそうに笑う貴方に興味が湧いてきただけなんですよ。
















「殺されるのが嫌じゃないんですか?」
「嫌だと言ったらお前は止めてくれるのか?」
「さぁ?ですが考え直したりはするかもしれませんよ」
「お前がそんな奴には見えないがな」
目の前の華奢な彼は微笑んで仲間の屍を見る。
「さすが、ボンゴレと言ったところか?」
「…名を知ってくださっているようで光栄ですよ」
「知りたくなくても知ってしまうさ。この業界にいればな。なぁ、霧の守護者様」
くすくすと笑う彼がまさに霧なのではないかと思えるほどに本当の姿を見せない。ここまで美しい者を見たのは初めてかもしれない。
「霧、ねぇ。確かに霧のように幻影を見せるな」
「そうですか?」
「あぁ、素晴らしい目を持っているな」
「別に眼だけでそうなっているわけじゃありませんけどね」
「何だ。そうなのか」
初めて見せる少し興味深そうな人間の顔。僕は右目を緩やかに触り、忌々しげに笑む。
「さしずめ呪いでしょうか」
「へぇ…」
全てのものを見てきた。堕ちるところまで堕ち、そして這い上がってきた。それがこの彼に解るだろうか。
「俺も、じゃあ呪いを持っていることになるな」
そう言って彼は左目に触る。忌々しげに。先ほどきっと自分がしていた顔だろう。
「嫌な、呪いだ。人の意志を捻じ曲げる。…そうだな。幻影と似ているようなものかな。その呪いにかかっている間、自分のしていることなど分かりはしないのだから」
「…」
その時、下のほうでがやがやと音がする。あぁ、援助が来たのかとぼんやり思った。綱吉が送ってきたのだろう。自分だけで十分だと言ったのに。
「騒がしくなってきたな」
「…そうですね」
「殺さないのか?」
問われ、答えに困っている自分がいる。いつものように殺してしまえばいい。敵のマフィアなんて。それにどっちにしろ死ぬのだ。今下にいる者たちが来たら目の前の彼は殺される。ただ、それだけ。
でもそれが嫌だと思っている自分がいることも確かなのだ。
「…そうですね」
その時扉が乱暴に開かれる。
「殺しませんよ」
中に入ってきたものから守るかのように彼に覆いかぶさり意識を奪った。眠ってしまった彼を腕に抱え、そのまま戻ろうとする。
「殺さないのか?」
そう問われ、僕は笑みを浮かべる。
「天使か悪魔か分からない者を殺すのは惜しい」
そう、人間じゃない。こんなにも人を魅了する酷く美しい存在が、そしてどこか人を包み込んでくれるような優しげな雰囲気を放つ彼が、人間なわけないのだ。
「くふふ…」
こんなのはただの言い訳なのだろう。ただきっと自分はこの男を失いたくないだけなのだ。
あぁ、馬鹿みたいだ。この世で最も憎むマフィアに心奪われてしまったなんて。


「なんで敵を連れてきたの?」
「…」
「骸、とりあえず答えてよ」
一応の自分のボス。そしてこの部屋にはそのほかに獄寺と山本もいた。
「骸っ!お前黙ってちゃわかんねぇんだぞ!」
「どこのチンピラですか。貴方は」
「まぁまぁ。獄寺も落ち着けって」
「…骸、ただ理由が聞きたいだけなんだよ」
綱吉が少し目を伏せて自分に問う。
「何で、敵を連れてきたのか。…別に理由があるならいいんだ」
「十代目!そんな甘いこと…」
「良いんだよ。獄寺君」
少し微笑んで綱吉は言う。あぁ、あの彼が誰かに似ていると思ったらどことなく綱吉に似ている。大空のように包み込む優しさ。彼もそんな優しさをもっている気がする。
「それは、「ほら。やっぱり揉めてるじゃないか」
くすっという声に自分の声が遮られ、僕は後ろを向いた。そこには自室に寝かしてきた先程の男が立っている。
「どうぞ。殺して下さってかまいません。…ボンゴレに殺されると言うのならある意味本望ですし」
優雅ともいえる動作で少年は綱吉の傍に行く。
「殺さないよ」
「…ずいぶん甘い組織ですね」
「骸が殺さなかったの、わかる気がするから」
にこっと綱吉が微笑んだ。
「恋、しちゃったんだね」
そういった瞬間に自分の顔が赤くなるのがわかった。そして振り向く彼は不思議そうな顔をしていて。
「名前なんて言うの?」
「…ルルーシュ」
「へぇ。いい名前。ねっ!骸」
「はっ!別に、…そうですね。いい名前です」
綱吉が素直になれというような視線を送ってきたので思ったことを口にするとルルーシュは微笑んでありがとう、といった。
「ルルーシュさん、よかったら仲間に」
「…は?」
「俺たちと一緒に、戦いましょう?」
綱吉の言葉を聞いてルルーシュが悩む様に視線を下に落としたあと、嬉しいと答えた。あぁ、こんなに簡単に仲間に入るのか、むしろ入れるのかと周りにいる守護者は半ば呆然としている。
「よろしく、骸」
「…よろしくお願いします」
でも、一緒にいられるならいいかという気もしてきた。


以外に自分は単純だったらしい。
























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                          なんでそんなに僕の心を惑わすんですか?
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