小説 他

□Last message
1ページ/1ページ

多分、俺にとってのお前は言葉では言い表せないほど大切な人だったんだよ。








目を開けるとそこは変わらず戦場だった。本当に地獄絵図をみているようだった。だけど、その地獄絵図の中心に居ながら自分は何もしてない。・・・ただ、他人に迷惑をかけているだけなのだ。
「ルフィ」
名を呼ぶと聞こえるはずがないのだが戦っているルフィがこちらをみたような気がした。
「エース、助けるぞっ!」
そう言ってこちらを見てくるその眼には迷いなどはなかった。強い光を宿した眼に、あぁ、変わっていないなと思う。
本当に変わっていない。そのことが嬉しくもあり、同時にとても悲しかった。
その真っ直ぐな性格にどれほど救われただろう。どれほど惹かれただろう。だけど、その性格のせいで今は危ない状況に陥っている。自分はルフィに怪我などして欲しくなかった。しかもいつ死んでもおかしくないようなこの戦場になど来て欲しくはなかった。





「エース、俺がエースを守ってやっからな」
「はは、俺はお前に守られるほど弱くねぇよ」
「それは知ってるぞ。弱くないってことは。でも、俺はエースより強くなってエースを守るんだ」
そう言って笑うルフィにエースも笑みを浮かべた。だけど、そうはなって欲しくないとも思っていた。いつまでもルフィは自分の弟だし、そして兄である自分の特権はルフィを、弟を守ることだと思ったから。
「海へ出たら何が待ち構えてるんだろうな」
嬉々として問いかけてくるルフィにエースは苦笑した。
「困難や苦難・・・それ以上にきっと俺たちは多くの冒険に囲まれて幸せになれる」
「仲間をいっぺぇ見つけんだ!シャンクスに負けないくらいの、いい仲間を」
「そうだな。いい仲間が集まるよ。お前には」
「エースにもな」
「もちろんだ。大事な仲間を作って、一緒に冒険すんだ」
「おう!」
笑いながら言うルフィに対し純粋に笑い返すことはできなかった。ルフィに自分よりも大切な仲間ができるのでは、と不安だった。
自分にも仲間ができるだろう。大切な仲間が。だけどきっと、ルフィよりも大切に思える存在はできないに違いない。
海へ出たら・・・海に出なくてもそうだがずっとルフィのことを想うだろう。そしてそれはきっと、自分だけじゃなくルフィもそうだ。
「ルフィ、俺が海へ出たら寂しくねぇか?一緒に居れなくなるんだぞ」
「・・・大丈夫だ」
「嘘つけ」
「寂しくねぇよ。だってオレもすぐ海へ出るんだぞ。そしてエースに会うんだ」
「俺が海へ出て、泣くなよ」
「泣かねぇって!」
「兄ちゃんは心配だよ」
くしゃっと頭を撫でるとルフィがう〜っと言いながらも素直に撫でられる。
多分、ルフィと居る時間が自分にとっては何よりも大切な時間なんだと感じた。
そしてそれはきっと、多分ではなくて。




「ルフィ!」
名を呼ぶと戦場でもルフィはエースの方を向いた。
「ルフィ!俺がいなくても寂しくないか!?」
「え?」
「一緒に居れなくなるんだぞ!」
声が震えたけれど泣きはしない。そんな姿を弟に見せたくないと言う変な意地もあった。
「エース!」
「俺は寂しくない!」
一端言葉を区切って息を吸う。息苦しかった。この戦いをみているのが。
「俺とお前は自分の道を進んできた!その間、寂しいなんて思うことはなかったはずだ!お互いに大事な仲間を見つけて、そして海を進んできた!」
涙が出そうになるのを唇を噛んで堪える。本当はルフィが恋しい時があった。一緒に居たいと願う日もあった。だけどルフィが今、それを知らなくてもいい。
「エース!」
ルフィが叫ぶのが戦いの中なのによく聞こえた。
「オレはずっと寂しかったぞ!」
その言葉に顔を上げる。
「エースがどこかに居ると思えたから、頑張れた!海に出れば、エースもどこかで冒険をしてると思えたからオレも頑張れた!海に出ればそう思えたけど、本当は寂しかったんだ!」
ルフィが切りつけてきた敵を振り払い拳を握りしめた。
「あの時だって、本当は離れたくなかった!」
あぁ、ルフィも村でのことを憶えていてくれたのかと思ったら体が震えた。あんなに些細なことを憶えてくれていたのかと思ったら嬉しくて仕方がなかった。
それだけで、十分だとも思えたんだ。
微笑む顔は見えるのだろうか。呟く声は聞こえないだろう。だけど、それでも構わない。
ルフィ、前を見て進め。お前が自分の夢に向かって進んでくれればそれだけで満足だ。
「愛しているよ」
とても大事な、人。

それは言葉では言い表せないほどで。





















Last message
   最後の言葉を、君に届ける

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ