小説 他

□夢の隙間、一時の夢現
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監獄の中に入れられ監視。自分の行動は全て見られている。自分から進み監獄に入れられた。それは、キラじゃないと証明するため。…思い込ませるために。
月は瞳を閉じた。考える時間は多すぎて有り余るほどだ。自分の計画はもう既に進行し、そしてそうなるという自分がデスノートを手放し記憶を失った後にとる行動も予測できている。今考えることは自分がデスノートを取り戻し、Lがいなくなった世界で何をするかだ。
L、邪魔な存在だ。月のことを悪だと言い、自分を正義だと言い張る。だが、彼のお陰で世界が退屈じゃなくなったことも確かなのだ。
その時、がちゃっという音がして月は目を開けた。目の前にいるのはL。食事をトレーに乗せて持ってきた。
「月君、少しは食べないとだめですよ」
「食べたい気分じゃないさ。…それよりも竜崎、監視対象者の監獄なんかに来ていいの?」
「食事を運ぶのぐらいはかまいません。そして、食事を食べるのを見届けるぐらいは」
月が身体を起こし、ベッドの空いたスペースに竜崎が座る。いつもの座り方。いつもの、表情のない顔。何を考えているのかなど簡単には窺えない。その瞳にそもそも感情があるのかどうかすら疑わしいのだ。
「いいよ。もう。…本当に食べたい気分じゃないんだ」
「…そんなことを言ったら本当に参ってしまいます」
「今度食べるよ。…だから竜崎、もう戻っていいよ」
そういうと竜崎が少し下を向いて爪を噛む。
「…嘘を吐きました」
「…嘘?」
「えぇ。ここに来たのは月君に会いたかったからです」
何を言い出すのかと月は怪訝な顔をした。自分に会いたかったなどと意味の分からないことを言い出す。ずっと、見ていたくせに。監視の対象として、ずっと。
「いつもモニター越しに月君が弱っていくのを見るだけです。…直接会って話したかった」
ぎしっとベッドの軋む音がして竜崎の顔が近づいてきた。何をされるのかと考えたが唇に竜崎のそれが触れてそう言うことかと思い目を閉じる。自分に好意を持っているのかと思って笑い出しそうにもなった。キラである自分に好意を持っているのかと。
あぁ、なんて愚かなんだ。自分も、こいつも敵に好意を持つなんて。

あぁ、なんて馬鹿なんだ。





















鎖で繋がる生活。キラとしての容疑者、監視対象者である夜神月とずっと一緒に。
共にキラを追い続けていく中で濃くなる夜神月がキラであるという“ハズレ”の気配。それでも自分の中にある月がキラで“あってほしい”という望み。もうそれは望み、願いに近い。だけど確信もある。前のキラは月だった。これは確定している事実。
その時、隣で資料を見ていた月がいつの間にか眠っているのに気が付いた。
「ワタリ、月君が眠ってしまったので何かかけるものを。あと私に何か飲み物をもらえますか?」
「はい」
暫くして手に毛布とカートを引いたワタリが来る。毛布を受け取り自ら月に布をかけてLは甘くした紅茶を飲んだ。
「最近、Lはとても楽しそうです」
「…そうでしょうか?」
「えぇ、月君と出会ってから」
「確かに、キラというのは今までにないくらい頭の切れる犯罪者ですから。一種のゲームみたいで楽しくないとは言えません」
「私には、」
ワタリが微笑んだ。ワタリは昔から自分のことを知っている。親のような気持ちを自分にもっているのだろう。自分も、ワタリに対し少なからずその気持ちはあるような気がする。
「月君とお友達になってから、Lはとても楽しそうに見えます」
「…まぁ、月君は初めての友達ですから」
そう、月がキラじゃなかったら、自分の友だ。まぁそれはないだろうがとLは月を見た。
月が、キラじゃなかったら純粋に彼を愛せたのに。そう思って瞳を伏せる。
今も、むしろ今の方が純粋だろうか。
キラだと疑って止まない人を好きになるのだから、ある意味これは純粋なのだろう。
隣で眠る月は自分の思っているキラと違う。いや、正確にいえばキラじゃなくなった。性格が変わったとしか思えない。だけど前のキラは間違いなく月なのだ。
そう思って首を振る。そう、自分が思いたいだけかもしれない。だが、思い込みのだけのせいじゃない気がする。

監獄にいた月に会いに行って、出ようとした時、彼は確かに笑った。
「またね、L」
その時の月は、キラじゃなかっただろうか。



あの時の挑戦するような、そして試し射る様な瞳を自分は忘れることはできない。
そう思ってLは瞳を閉じた。























夢の隙間、一時の夢現
      また“キラ”に逢う日は、いつだろうか

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