んが。

□プロローグ
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ジリリリリリリリ


俺の耳を劈く愉快痛快な不快音。
そんな矛盾だらけの朝を迎えた。


今日は入学式である。

俺は目覚時計へと手を伸ばし軽く叩いて息の根を止めてやる。
そして勝ち誇ったように再び布団に潜るのだ。




おっと忘れていた。
まずは自己紹介をしなければなるまい。
俺の名前は『橘冬樹(たちばなふゆき)』。
長いんだか短いんだかわからない中途半端な髪をぐしゃぐしゃにした髪型に、日本人としては平均的だと思われる身長一七〇センチの中柄。

今年から葛乃葉高校に通うことになった十五歳バリバリ青春真っ只中少年ボーイである。

この小説が俺の語り口調になっている理由は至って単純。
俺が主人公。
つまりは世界の中心だからなのだ。


敬え。
そして平伏せ愚民ども。



まあそんなこんなで俺には朝から不満がありまくる。

朝のイベントがまだなのだ。


これを言ったらわかるだろう。
俺には同じ高校に通う予定の隣りの家に住む幼馴染みと二つ下の妹がいる。


俺の言いたいことがわかったはずだ。

そこで俺は君達に厳しい現実を告げねばならない。



起こしに来るのは母親だ。

「冬樹ー。起きなさーい」


夢の終わりを告げる邪悪かつ残酷な声が部屋の外、一階階段前から聞こえてきた。


俺は幻想に別れを告げ渋々布団から出ることにした。

四月と言ってもまだ微妙に肌寒い。
にもかかわらず俺はTシャツと中学の短パン(年中無休)姿。


これが男の生き様なのです。


俺は眠気と寒さの波状攻撃によろめきつつ階段を降りていく。


ようやく降りきったところで会社に出勤なさる父上様に遭遇した。

「おはよう冬樹。お前今日から学校だろ?遅刻するなよ」


父の名前は『橘裕矢(たちばなゆうや)』。
歳の割に若い顔立ちなのだが若干猫背のためどこか頼りない感じである。


「おはよう。わかってるよ」


朝の挨拶とともに短い父との会話を済ませて台所に向う。
そこで今度は母と遭遇。


「あなたも早くしないと遅刻ですよ。冬樹も早くご飯食べちゃって」


「はーい」


俺と父は同時に返事をした。

母の『橘愛美(たちばなめぐみ)』は父とは反対にしっかりしている。
高校生の息子をもっているわりには年も若く、近所では美人と評判である。

息子としても鼻が高いのだが、あのクソ親父はいったいいくつで…

などと考えている間に今度は台所で妹に遭遇。

妹の名前は『橘美月(たちばなみつき)』。
今年中学ニ年生の美月は顔にまだ幼さを残しつつも母に似てしっかり者である。
髪をツインテールにして中学の制服を着ている。
我が妹ながらなかなか可愛い奴だ。


俺も母に似たかったと美月を見る度に思ってしまうのも事実。


「お兄ちゃんおはよう。早く食べないと遅刻するんじゃない?」


「おはよう。お前よりは余裕なのだよ」


俺はゆったりまったりと椅子に腰掛け、用意された朝食を食べ始める。

我らが葛乃葉高校の登校時間は八時三〇分までなのだ。
そして中学は八時まで。


これが高校と中学の差なのだよ我が妹よ。


そんな余裕を見せつつ俺は味噌汁をすする。

「あー。なんかムカつくー」


と美月が頬を膨らませていたが、さすがに時間が迫り始めたのか、急いで台所を出ていってしまった。


そんな妹を横目に見つつ、再び味噌汁をすする。


「美味い」


「美味い。じゃない。早く食べなさい」


「!?」


俺は思わず味噌汁を吹き出しそうになった。
父の見送りを済ませた母が音もなく俺の背後に立っていたのだ。

「びっくりしたー。もっと気配を全面的に押し出して近付こうよ。明るく元気にいこうよ」


「なに馬鹿なこと言ってるの。早く食べて。洗う人の気持ちも考えなさい」


俺は全身全霊の言葉を軽くあしらわれ、純粋な心を鬼畜に弄ば…


「早く」


と母にとどめを刺された俺は無残に敗走するのであった。






なにはともあれ俺の新生活がスタートした。
高校という新しい舞台はどこまで俺を楽しませてくれるのだろうか。


「いってきまーす」


そう言って俺は新天地への扉を開けたのだった。

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