短編
□老衰
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お前がまだ、小さく幼く弱々しい子供である時。
お前は、お前を苦しめようとする敵と戦って、顔を血塗れにした親に守られて、平和な家族の安全な箱庭で顔を泥だらけにして遊んでいる事だろう。
何も考えず、ただ顔を泥だらけにして遊んでいるだろう。
だが、その遊びによって、お前の中で何かがむくむくと成長していく。
そしていつの日か泥が血になっていく。
なんたる不名誉。
お前が、強く逞しく力強い若者になった時。
お前は顔を血塗れにして敵と戦っているだろう。
対立する敵を切り裂き、撃ち抜き、殴り殺す。
お前は強くなる。お前の中で一番強くなるのだ。
だがいつの日か自らの手で世界を変えるだろう。
なんたる不名誉。
お前は世界の王座に君臨する。
お前が、小さく貧しく弱々しい老人になった時。
お前はその濁った眼で世界を見渡すだろう。
そして言うことを聞かない身体を無様に踊らせて、手を震わせながら世界の平和を願うだろう。
足が縺れて、肥溜めに顔から突っ込んだ瞬間、気付くのだ。
顔を血塗れにして敵と戦っていた時の自分を。
糞塗れの顔を晒して。
人はそれを繰り返す。
なんたる不名誉!
歌え! 叫べ! 踊れ! 生きろ! 死ね!