エゴ

□+熱情+
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「…大丈夫だから入って来んな。」


…穏やかな口調の裏で

………後ろを向いたヒロさんの背中が俺を拒んでいる。


「……ヒロさん。」

「いいからっ行けって!」

…俺を…拒絶する。


………なぜ…?

どうして?

「……いやです。」

夢中でヒロさんを抱きしめて…口づけても、

キツく閉じられたその唇は、俺の侵入を頑なに拒むのだ。


………だから、無理やりにでもヒロさんの体に快楽を植えつける。


……俺から離れないように。


………俺を欲しがるように。

…俺無しではいられないように。



「いやだ…やめろっ!」

……聞きたくない。

「野分っ…いやだっ。」


その言葉は、夕べ何度も聞いた。


嫌がるヒロさんの脚を無理やり開き、猛った自身で容赦なく貫いて…眩暈がするほどの快感を貪りながら、

俺という存在をヒロさんの体に刻む。


「……っ…!…野分っ…いや…だ…やめろっ」


以前のように、甘い声を聞かせて欲しいのに…。


愛してるって…言って欲しいのに。


「ヒロさん…愛してる。……愛してる。」


呪文のように愛の言葉を囁いても、決して答えてはくれない。


……絶望の中で

…押し寄せる悲しみの中で愛しい人を抱いたのだ。


「ヒロさん、もう一度…俺を好きって言って下さい。」


…でないと俺は…ヒロさんを雁字搦(がんじがら)めにして一生閉じ込めてしまう。










ヒロさん…お願いですから言ってください。


「……わき……野分っ、どうしたっ!?目ぇ覚ませっ!おいっ野分っ!」


突然…頬に激しい痛みが広がり、心臓が飛び出るほど驚いて目をあけると、心配そうな顔で俺を見下ろすヒロさんがいた。


………えっ?


「野分っ!大丈夫かっ!目ぇ覚めたか?寝ぼけてんなら、もう一発…」


夢現(ゆめうつつ)の中で…思いっきり振りかぶったヒロさんの平手打ちを受け止める。


「……ヒロ…さん?」


「どうしたんだっ?すげぇ魘(うな)されてたぞっ!」


「…あ…あれ?」

………夢?


「あれ…じゃねぇよっ。大丈夫か?体…どっか痛いのか?」


「…はい。とっても痛いです。」

「どっどこだっ!どこが痛いんだっ!?び…病院行くかっ?…いやいや、お前も医者だったな。待て待て…医者だって具合悪くなるぞ。野分起きろ!病院行くぞっ!」

たった今、再度俺を殴ろうとしていたはずのヒロさんの慌てっぷりといったら尋常ではなくて…。

「くすくす…待って下さい。具合悪いわけじゃないんです。ちょっと悪い夢見て…まだショックから立ち直れないだけで…心が痛いんです。」


「…はぁ?お前…どんな夢見るとそんなになるんだよ?」

「…口に出すのも恐ろしい夢です。」


…思い出すだけでゾッとする。


「………ヒロさん。」

怖い夢から抜けきれなくて、ヒロさんを胸に抱いて現実を確かめる。


「……野分?」

「少しだけ…このままいさせて下さい…。」


「…お…おぅ///」




ぶっきらぼうに返事をしても、大人しく俺の胸におさまっていてくれるヒロさんに…



………夢の中とはいえ、なんて酷い事をしてしまったのだろう。




…もしも、あの夢が現実のものとなったとしたら

…俺は、夢の中と同じことをするのだろうか。


堪えきれない醜い感情をさらけ出し…ヒロさんを犯し続けるのだろうか?



いや…そうならないためにも、ヒロさんに相応しい人間にならなくては……。


あなたと…ずっと一緒にいるために

……冷めることのない熱情とともに…。






(おわり)
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