エゴ
□欲しがるままに。
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「ヒ…ヒロさん…!?」
……どうしたんだろう。
…今
俺の目の前には、四つん這いで近寄って来るヒロさんがいた。
いつもなら、ほぼ100%の確率で最初に触るのは俺の方なのに…
今日のヒロさんは、いつもと様子が違うのだ。
「………野分…。」
ああ…なんて甘い声で俺を呼ぶんだろう。
軽く眩暈をおぼえる俺に、ヒロさんの細く長い指が頬を撫でる。
「…ど…どうしたんですか?」
「…いや…その…ちょっと触ってみたくて。…ごめん…暑苦しいよな?」
そう言って、ヒロさんは恥ずかしそうに手を引っ込めた。
「……いえ…。」
…寧ろ、気絶しそうなくらい幸せで…もっと触ってほしいくらいです。
ジッと見つめると、ヒロさんはパッと顔を赤らめて俯いた。
「なんだろうな…無性にお前に触りたいっていうか…ヘンだよな…オレ…。」
「そんなことないです。すごく嬉しいですよ。いっぱい触って下さい。」
「………うん。」
遠慮がちに頷くヒロさんの両手は、再び俺の頬に触れて何度も撫でた後…
俺の首に顔をうずめて…柔らかな唇が触れる。
………ぅゎ…っ///。
「…ヒロさん、どうしちゃったんですか?。」
「………なにが…?」
「いえ、あの…なんか…ヒロさんらしくないなぁ…とか…思って…。」
付き合い始めて6年…こんなヒロさんは初めてだ…。
「……オレだって…お前に触りたい時がある。」
小さく眉を顰めるヒロさんが、とっても愛しくて…抱きしめたい衝動にかられるけど、
こ…ここは…我慢だ。
「…はい。どうぞ…続けて下さい。」
体を起こしたヒロさんは、ぎこちない手つきで俺のシャツのボタンを外すと…マジマジと見つめ、俺の胸に手のひらをそっと押し当てた。
「…野分の心臓…ドキドキしてる。」
「…ヒロさんが触ってるんですから、あたりまえです…。」
思いあまって、愛しいヒロさんを抱きしめると、ヒロさんの胸からもドキドキが伝わって来て…共鳴する。
こんな至福の時があって良いのだろうか。
………ああ
…俺…もの凄く幸せだ。
「……ヒロさんっ。」
ぎゅっと抱きしめると
「…………野分。」
ヒロさんが力の限り抱きしめ返してくれる。
………そう。
…力の限り…ぎゅっ…と。
…………ぎゅっ…と
………………。
「………っ!?ヒ…ヒロさん…苦しいです。」
あまりの苦しさに、目を開けると…
隣に眠るヒロさんが、抱き枕よろしく俺を羽交い締めにして眠っている。
………夢か…。
もうちょっと、我慢すれば良かったな。
ちょっとガッカリしながら、スヤスヤと静かな寝息をたてるヒロさんの顔を眺めて、額にキスをすると
「……野分…好き。」
………寝言。
「くすっ…出血大サービスですね…。」
大好きヒロさんに抱きしめられたまま眠るなんて、滅多にない事だから…このままでいよう。
「愛してます。ヒロさん…良い夢を…。」
野分は、弘樹を起こさないように気をつけながら、そっとタオルケットをかけ直し…また眠りについたのだった。
(おわり)