エゴ

□+熱情+
1ページ/2ページ




あの人は、もう部屋にはいないかもしれない。


………彼が俺から離れていく。

そんな事…受け入れられるわけがない。






……夕べ

突然、俺に「別れる。」と告げて部屋を出ようとしたヒロさんを、

羽交い締めにして部屋に引きずり戻し…彼が気絶するまで

………激しく抱いた。




…不安と…恐怖と

…自分の身勝手な欲望のままに。






………ヒロさんと幸せな日々を過ごした…

…いや…今も過ごしているはずの部屋の前に立ち、ポケットから鍵を取り出す。


静かに玄関の扉を開けて中に入り施錠した後に、チェーンロックもかける。


…逃がさない。

………俺から離れていくなんて、

…許さない。



ヒロさんの部屋の前に立ち、ドアをそっと開けると、

乱れたシーツの上に横たわるヒロさんは、虚ろな視線を俺に向けた後、静かに逸らした。

それでも…彼の姿にホッとする。

「……ヒロさん…ただいまです。」



そう声をかけても、ふいっと顔を背けて返事を返してはくれない。


……あたりまえか。

俺がいない間に、部屋から出てしまわないように

…どこかに行ってしまわないように、俺はヒロさんの手首を紐で抑制した。


ベッドの傍らに腰を下ろし、両手をくくりつけた紐を解くと…手首には血が滲んで乾いた痕…。

……やっぱり、逃げようとしたんですね。

「……ヒロさん。」


痛々しい両手をとり口づける。

………ごめんなさい。


「…だめじゃないですか。無理に解くと痕が残っちゃいますよ…。」


「…その手を…離せ。」

瞳の奥に、怒りに似た光を宿すヒロさんの低い声が響く。

今は、その声すら愛しくて…。

「…いやです。どうして急に別れるなんて言うんですか?…俺…ヒロさんに嫌われるようなこと何かしましたか?」


ピクリと体を震わせたヒロさんは、…そのまま瞳を閉じた。


「…ヒロさん…教えてください。俺、直しますから…。」


口元に薄く笑みを浮かべたヒロさんは、

「……お前はいいやつだよ。非の打ち所がないくらいにな…。」



……その言葉は…俺のすべてを拒否しているようで…。


「ヒロさん…どうして……。」

「“好きなやつが出来た。”………それでいいだろ?」


残酷な言葉を吐き捨て体を起こすと


「…シャワー浴びてくる。」

シャツを羽織ったまま、覚束ない足取りで部屋を出ようするヒロさんの後を追いかける。


「ヒロさんっ!」


「…くすっ。逃げねぇよ。シャワー浴びるだけだから…ついて来んな。」

ドアを閉めたヒロさんの足音は…確かにバスルームへと向かっていたけれど、それでも不安で…自然と俺の足はヒロさんを追いかけていた。



少し離れたところで耳をすませると、シャワーのコックを捻る音と水音が聞こえてきた。



「……っ…てぇ…」


ヒロさんの小さく呻く声がして、

「ヒロさんっ、どうしたんですか!?」

慌ててバスルームのドアを開けると、ソープの泡が残るスラリとした細く綺麗な体が目に飛び込んでくる。


「……………。」


無言のまま隠したのは手首で…擦った時にお湯がしみたらしい。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ