エゴ

□オレにだけ…。
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なんで…こんな事になってんだ?



「さぁ、飲んで飲んで」

こうしてビールを片手に酒をすすめるのは宮城教授で…。



「い…いえ…あの…。」

コップにビールを注ごうとする教授を、さり気なく避(さ)けようとするのはオレの恋人…野分だ。


「………宮城教授。教授のテーブルはあっちでしょう。なんでオレ達んトコにいるんですかっ!?」


オレは、野分と2人で久しぶりに酒飲みながら、飯でも食おうって居酒屋に来ていた。


…なのに…何の因果か、教授とゼミの学生との花見帰りの二次会とかち合ってしまったのだ。

せっかく楽しく飲んでたのに…。

締(し)めの茶漬けを待っていたオレ達を見つけた教授が、野分の隣に陣取ってしまった。


「上條〜。いいから気にすんなって。」

ほろ酔い加減でご機嫌の宮城教授は、そう言って空いているグラスにビールを注ぎ勝手に飲み干した。


「気にするでしょう。あっちでゼミの子たちが待ってますよっ。」


「なんだよ上條〜。つーめーたーいぃ。なぁ、そう思わない?」



オレの野分に纏わりついて、なかなか離れてくれない宮城教授にイラッとして、掴んだ箸をへし折りそうになるのを

見兼ねた野分がオレから取り上げると



「ヒロさん、ダメですよ。指にケガでもしたらどうするんですか?」

小声でそう言いながら、取り上げた箸をテーブルに置いた。


「なにが、どうしたって〜?」


教授は、思いっきり迷惑な顔をしているオレに、まったく気づいてくれない。


……空気読んで欲しい。

「いえ、なんでもありません。」



ヒクつく顔をそらしたところで、注文していたお茶漬けが運ばれて来た。

「おー。茶漬けかぁ…。飲んだ後って、こういう軽めのもの胃に優しいよね。」


「ちょっ…教授っ!?それオレの…」

オレの前に置かれたお茶漬けを素早く手に取った教授は、サクサクとレンゲで軽くほぐすと

「堅いこと言うなよ。一口だけだからさぁ。」



ニッコリと笑い、フウフウ言いながら口に入れた。


「うまいっ!研修医君も食べるか?」


レンゲですくったお茶漬けを野分の口に持っていった。


「はい、アーンして。」

…ちょーっと待てっ!

オレの野分に何をっ!?


「いえ…けっこうです…。」

野分が遠慮がちに身を引くと…

「え〜。旨いのにぃ。」

不満そうに教授は口を尖らせた。

「教授っ。それはオレんですっ!つか、もう行って下さいよっ。」


「あれぇ。やっぱ、お邪魔〜?」


「〜〜〜っ。」

…ここで

邪魔と言えば、なんで?と聞かれて…いらん事まで口走ってしまいそうだ。

「…じゃ…邪魔…ではないです…けど…。」


……早く行って欲しい。

「…邪魔だよなぁ。」


はぁ…と溜め息をつく教授に

「…言ってないです。」

と、一応否定して焼酎に手をのばして誤魔化す。

「だって、眉間にシワ寄ってるしぃ。」

そう言いながらオレの額に手をのばすと、

「…………。」

絶対零度の笑みを浮かべた野分が教授の手をとった。

「あれ、お触りダメ?」

上目遣いで伺いを立てる教授に、


「はい、ダメです。」

そんなのはお構いなしに野分は笑みを浮かべたまま答えた。


「そんな怖い顔でニッコリされちゃーなぁ…。」


溜め息混じりに、がっくり肩を落とした教授は大人しく引き下がったと思いきや、


「よーし、わかった。研修医君、キミが食べてくれたら退散するよ。」


再びレンゲを握りしめた。


「教授…そういう事は、彼にしてあげたらいいんじゃないですか?」


オレがツッコミを入れると、教授の手は再び止まり…

「………だって…忍チンってば…」

背中を丸めて涙を浮かべた。


………また…なんかあったな。


「いいですよ。俺食べます。ですが、そのかわり…」


その先を言わない野分だったが、教授には伝わったらしく、

「…はいはい…わかってますよ〜。」


「の…野分っ、食べなくていいぞ。…って、あ…」

…食いやがった。


「のーわーきー。」


オレだってしたことねぇのにっ!


「なんだ、上條もか?」

「んなわけないでしょうっ。いいから早く行ってください。」


「へーへー。じゃあな。」

お茶漬けの器を置いて、やっと席を立った教授にホッとする。

「おっと、研修医君も…またな。」


「…教授。」

「わかってるって。」

教授は、ニカッと白い歯を覗かせ悪戯っぽく笑った。


「…飲み過ぎないで下さいよ。明日、会議があるんですから。」

テーブルを離れる背中を見送ると


「はいはい。」


教授は、ヒラヒラと手を振り行ってしまった。




「…ったく。エラい目にあったぜ。」

「ヒロさん、冷めちゃいますよ。」


「おう。」

お茶漬けの器を引き寄せ、レンゲでご飯を揺らすと


「…そういえば、俺ってヒロさんにアーンってしてもらった事ないですね…。」

「ゴフッ。なっ…何を急に…///」


「…たまに…してほしいです。」


「んなこと、誰がやるかっ///。オレは別に…野分が教授にアーンされても気になんかならないし…。」



「…ですよね。俺が誰かに食べさせてもらっても平気みたいでしたし…」

がっかりしたように、溜め息をつく野分だった。

…んなわけねぇ。


…とは、どうしても口に出せないオレだった。


「…で…でも、オレにアーンしていいのは……ゴニョゴニョ……なんだからな…!」

「はい?」


「…なんでもねぇよ。」

……お前だけ…なんて、オレは絶対に言わない。





(おわり)

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