エゴ

□+無遠慮+
1ページ/1ページ




野分に会うのは久しぶりだ。


……早く会いたい。

…キ…キスとかもしたい。

そんな気持ちでいっぱいだったのに…。




「ヒロさん、ただいまです。」


「あーお帰り。お…疲れさん…。」

玄関で靴を脱ぐ野分は、目の下にクマが出来ていて…


「…どうした?すごく疲れた顔してっけど…。」

「あ…はい。ちょっと忙しいのが続いちゃって…。」

「…そっか。大変だったな…。」

この姿を見ると、無事に帰って来れたのが不思議なくらいだ…。


「飯は出来てるから、とりあえず風呂入れよ。すぐ食えるようにしとくし…。」

……キスは…おあずけだな。


「はい、ありがとうございます。…でも…ヒロさんにキスしてから…」

フラフラしながら、オレを抱きしめる野分からは消毒液の匂いがして…ここへ帰る直前まで仕事してたんだろうな。

…野分らしいっていえば

………野分らしいか。

「野分、…飯食うか風呂入るかしろよ。」


「はい…でも…キスしたいです。」


……オレだってしたい。


「んなこと、あとでいいだろ。とにかく行けよ。」

キスしたい気持ちをグッと堪え、野分を風呂まで引っ張って行くが、

よっぽど疲れているんだろう…服を脱ぐのもノロノロしていた。

風呂に連れて来ないで、部屋で寝かせた方が良かったか…と、思ってみたりして…。


「ヒロさん…一緒に入りませんか?」

…一緒に…お風呂?

…あんなコトしたり?

……こんなコトしたり?

……………///。

………うーっ///。

…入りたいっ!

「ば…ばか言ってねぇで、さっさと入って来い。」


うっかり流されてしまいそうになるのを、なけなしの理性で抑えて込んで…一緒に入りたいと食い下がる野分を風呂に押し込んだ。









………なにやってんだ

……オレ。


せっかく野分が、キスしたいとか…風呂入ろうって言ってんのに。

……でも

キスしたら、その後も期待しちまう。



そしたら…野分のことだから、どんなに疲れていても乗っかって来るだろうし…

…それでなくてもヘロヘロなんだから、ここはオレが我慢すれば…

……いいだけのことだ。


「……あの…ヒロさん?」

半端に髪が濡れた野分が、風呂場からひょっこり顔を出した。

「な…なに?」

「シャンプー…きれちゃってるみたいで…。」

「…あっ悪い。」

洗面台の隣の棚から替えのシャンプーを探しながら、自然と溜め息が出てしまう。


「…ヒロさん、どうしたんですか?」


「…どうもしねぇよ。」

「そう…ですか。」

そう言って、オレの差し出したシャンプーを受け取り風呂へと戻る。





キッチンに戻ったオレが、テーブルにおかずを並べていると、風呂から出て来た野分が


「わぁ、ご馳走ですね。」

と、感嘆の声をあげる。

…当たり前だ。

全部お前のために作ったんだから…。

「……たいしたもんじゃないけどな…。」

ホカホカのご飯を盛った茶碗を置くと、

「ありがとうございます。」

そう言いながら、野分が後ろから抱きしめて来た。

…シャンプーの香りがするタオルドライしただけの湿っぽい髪が、オレの頬にかかる。


「…お前、髪の毛くらい乾かせよ。風邪引くぞ…。」

腕を解いて振り返ったオレが、野分の首にあったタオルでガシガシと頭を拭いてやると、本当に疲れているのか…甘えているのか…ジッとされるがままになっていた。

「…ヒロさん。」


「うん?」


……ちゅっ。

「………っ///」

不意打ちのような…軽く触れるだけのキスなのに…真っ赤になってしまったのがわかる。


……いつになっても

唇が触れるだけで…ときめいてしまうオレって…情けない。

「じっ…じっとしてろよ…///。」


「嫌です。目の前にヒロさんがいるのに、何もしないなんて堪えられるわけないでしょ…。」


野分の胸に抱きよせられると、ますますオレの心臓は高鳴って…

それこそ…理性なんてもんは、木っ端微塵に吹き飛んでしまいそうになる。



……だがっ

…堪えろっオレっ!


まずは、野分に飯を食わせて休ませるのが先だ。

「…と…とりあえず、…飯食えよ…。」

腕の中から逃れようと体を返したまでは良かったが、

「はい。では…ヒロさんから…」


そのまま抱きしめられて…首筋に口づけられた。

「ばっ…///ばかやろっ!せっかくオレが…」

……ガマンしてるのに


「……っ…///…ぁ…」



後ろからエプロンの布越しに触れてくる野分の手に握り込まれて、血流が一点に集中していく。


「ヒロさん…。」

熱っぽい野分の声が耳元に響くと、抑えきれなくなった欲情が溢れ出して…

「……ヒロさんを補給させて下さい。」


耳朶を甘噛みされ…、弘樹の唇からは、甘ったるい吐息が漏れ出てくる。



「……んっ…野分っ///」


崩れるようにソファーへ押し倒され…野分を見上げる弘樹の唇に口づける。


「ヒロさんが…好き。」

………流されるな。

…頑張れオレっ!

「…野分………飯…。」

「くすっ…どうしてそんなに我慢するんです?もうこんなに硬くなってるのに…」

「……。とりあえず飯食わせて…眠らせて…お前の目の下にあるクマを消したい。」


「…クマ?」

弘樹は、キョトンとする野分の目の下を指でなぞると、

「こんなになるほど、働いて来たんだ。これ以上体力使わせられっか…」

「…ヒロさん。」


「………だから…とりあえず休ませ…って…おい…っ///」

言ってるそばから下衣に手を入れてくる野分は

「そんなこと言われたら…今…しないと大変なことになりますよ?」


「………?…なにそれ……?」


「……だってほら。」

そう言って弘樹の大腿に押し付けた野分の自身は、当の本人の疲れを感じさせないくらい元気いっぱいで…、薄い夜着からでも十分過ぎるくらいそれを伝えてきた。


「………っ…!?」


………なんでギンギンなんだよっ///。


「俺…今ヒロさんとすごーくしたいんです。」

真っ赤になった弘樹は…


…ってことは、あれか?

野分の体力が全開だと、オレは大変な事になるってか!?

…弘樹の答えは、そこへ至った。


「……ヒロさん。」

「〜〜〜〜っ///。…わ…わかった。ちょっとだけだぞ…///。」


「はい。じゃあ“ちょっとだけ…”」


野分は嬉しそうに再び弘樹に口づけた。










「ヒロさん、起きれますか?」

エプロン姿でキッチンに立つ野分は、そう言いながら温めなおした味噌汁やご飯をよそっていた。


……なにが

………ちょっと…だ。


「…起きられるわけねぇだろ。…ムチャクチャしやがって…。」


ソファーに突っ伏したままの弘樹の顔には、うっすらとクマが浮かんでいた。


「すみません。ヒロさんが可愛くて…つい…」

てへへ…と笑う野分のだらしない顔に、


…何のためにオレは我慢したんだ?

……すべては野分のためじゃなかったのか?

これじゃ、心配したオレがバカみたいじゃないか…。


弘樹は、ツヤツヤした野分を見ながら眉を顰め、


こんなことなら、

…我慢も自制も、もう二度とするもんかっ


…と、心に誓う弘樹だった。





+おわり+

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ