エゴ
□+無遠慮+
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野分に会うのは久しぶりだ。
……早く会いたい。
…キ…キスとかもしたい。
そんな気持ちでいっぱいだったのに…。
「ヒロさん、ただいまです。」
「あーお帰り。お…疲れさん…。」
玄関で靴を脱ぐ野分は、目の下にクマが出来ていて…
「…どうした?すごく疲れた顔してっけど…。」
「あ…はい。ちょっと忙しいのが続いちゃって…。」
「…そっか。大変だったな…。」
この姿を見ると、無事に帰って来れたのが不思議なくらいだ…。
「飯は出来てるから、とりあえず風呂入れよ。すぐ食えるようにしとくし…。」
……キスは…おあずけだな。
「はい、ありがとうございます。…でも…ヒロさんにキスしてから…」
フラフラしながら、オレを抱きしめる野分からは消毒液の匂いがして…ここへ帰る直前まで仕事してたんだろうな。
…野分らしいっていえば
………野分らしいか。
「野分、…飯食うか風呂入るかしろよ。」
「はい…でも…キスしたいです。」
……オレだってしたい。
「んなこと、あとでいいだろ。とにかく行けよ。」
キスしたい気持ちをグッと堪え、野分を風呂まで引っ張って行くが、
よっぽど疲れているんだろう…服を脱ぐのもノロノロしていた。
風呂に連れて来ないで、部屋で寝かせた方が良かったか…と、思ってみたりして…。
「ヒロさん…一緒に入りませんか?」
…一緒に…お風呂?
…あんなコトしたり?
……こんなコトしたり?
……………///。
………うーっ///。
…入りたいっ!
「ば…ばか言ってねぇで、さっさと入って来い。」
うっかり流されてしまいそうになるのを、なけなしの理性で抑えて込んで…一緒に入りたいと食い下がる野分を風呂に押し込んだ。
………なにやってんだ
……オレ。
せっかく野分が、キスしたいとか…風呂入ろうって言ってんのに。
……でも
キスしたら、その後も期待しちまう。
そしたら…野分のことだから、どんなに疲れていても乗っかって来るだろうし…
…それでなくてもヘロヘロなんだから、ここはオレが我慢すれば…
……いいだけのことだ。
「……あの…ヒロさん?」
半端に髪が濡れた野分が、風呂場からひょっこり顔を出した。
「な…なに?」
「シャンプー…きれちゃってるみたいで…。」
「…あっ悪い。」
洗面台の隣の棚から替えのシャンプーを探しながら、自然と溜め息が出てしまう。
「…ヒロさん、どうしたんですか?」
「…どうもしねぇよ。」
「そう…ですか。」
そう言って、オレの差し出したシャンプーを受け取り風呂へと戻る。
キッチンに戻ったオレが、テーブルにおかずを並べていると、風呂から出て来た野分が
「わぁ、ご馳走ですね。」
と、感嘆の声をあげる。
…当たり前だ。
全部お前のために作ったんだから…。
「……たいしたもんじゃないけどな…。」
ホカホカのご飯を盛った茶碗を置くと、
「ありがとうございます。」
そう言いながら、野分が後ろから抱きしめて来た。
…シャンプーの香りがするタオルドライしただけの湿っぽい髪が、オレの頬にかかる。
「…お前、髪の毛くらい乾かせよ。風邪引くぞ…。」
腕を解いて振り返ったオレが、野分の首にあったタオルでガシガシと頭を拭いてやると、本当に疲れているのか…甘えているのか…ジッとされるがままになっていた。
「…ヒロさん。」
「うん?」
……ちゅっ。
「………っ///」
不意打ちのような…軽く触れるだけのキスなのに…真っ赤になってしまったのがわかる。
……いつになっても
唇が触れるだけで…ときめいてしまうオレって…情けない。
「じっ…じっとしてろよ…///。」
「嫌です。目の前にヒロさんがいるのに、何もしないなんて堪えられるわけないでしょ…。」
野分の胸に抱きよせられると、ますますオレの心臓は高鳴って…
それこそ…理性なんてもんは、木っ端微塵に吹き飛んでしまいそうになる。
……だがっ
…堪えろっオレっ!
まずは、野分に飯を食わせて休ませるのが先だ。
「…と…とりあえず、…飯食えよ…。」
腕の中から逃れようと体を返したまでは良かったが、
「はい。では…ヒロさんから…」
そのまま抱きしめられて…首筋に口づけられた。
「ばっ…///ばかやろっ!せっかくオレが…」
……ガマンしてるのに
「……っ…///…ぁ…」
後ろからエプロンの布越しに触れてくる野分の手に握り込まれて、血流が一点に集中していく。
「ヒロさん…。」
熱っぽい野分の声が耳元に響くと、抑えきれなくなった欲情が溢れ出して…
「……ヒロさんを補給させて下さい。」
耳朶を甘噛みされ…、弘樹の唇からは、甘ったるい吐息が漏れ出てくる。
「……んっ…野分っ///」
崩れるようにソファーへ押し倒され…野分を見上げる弘樹の唇に口づける。
「ヒロさんが…好き。」
………流されるな。
…頑張れオレっ!
「…野分………飯…。」
「くすっ…どうしてそんなに我慢するんです?もうこんなに硬くなってるのに…」
「……。とりあえず飯食わせて…眠らせて…お前の目の下にあるクマを消したい。」
「…クマ?」
弘樹は、キョトンとする野分の目の下を指でなぞると、
「こんなになるほど、働いて来たんだ。これ以上体力使わせられっか…」
「…ヒロさん。」
「………だから…とりあえず休ませ…って…おい…っ///」
言ってるそばから下衣に手を入れてくる野分は
「そんなこと言われたら…今…しないと大変なことになりますよ?」
「………?…なにそれ……?」
「……だってほら。」
そう言って弘樹の大腿に押し付けた野分の自身は、当の本人の疲れを感じさせないくらい元気いっぱいで…、薄い夜着からでも十分過ぎるくらいそれを伝えてきた。
「………っ…!?」
………なんでギンギンなんだよっ///。
「俺…今ヒロさんとすごーくしたいんです。」
真っ赤になった弘樹は…
…ってことは、あれか?
野分の体力が全開だと、オレは大変な事になるってか!?
…弘樹の答えは、そこへ至った。
「……ヒロさん。」
「〜〜〜〜っ///。…わ…わかった。ちょっとだけだぞ…///。」
「はい。じゃあ“ちょっとだけ…”」
野分は嬉しそうに再び弘樹に口づけた。
「ヒロさん、起きれますか?」
エプロン姿でキッチンに立つ野分は、そう言いながら温めなおした味噌汁やご飯をよそっていた。
……なにが
………ちょっと…だ。
「…起きられるわけねぇだろ。…ムチャクチャしやがって…。」
ソファーに突っ伏したままの弘樹の顔には、うっすらとクマが浮かんでいた。
「すみません。ヒロさんが可愛くて…つい…」
てへへ…と笑う野分のだらしない顔に、
…何のためにオレは我慢したんだ?
……すべては野分のためじゃなかったのか?
これじゃ、心配したオレがバカみたいじゃないか…。
弘樹は、ツヤツヤした野分を見ながら眉を顰め、
こんなことなら、
…我慢も自制も、もう二度とするもんかっ
…と、心に誓う弘樹だった。
+おわり+