エゴエゴ

□ボクのパパとお父さん14
1ページ/1ページ



…上着を三枚に、靴下を二枚…帽子を深々とかぶり、手袋をつけて…マスクをしても…



「ぞくぞくするです…」

「…あたりまえだ。40度近くあんだぞ。」

パパの背中におんぶされて…やって来たのは、お父さんのいる病院…。


頭がグラグラするです。

目がまわるです。

「パパ…ごめんなさいです。ボクすごく重たいです…。降りるですー。」

「バカたれ。熱出てんだから、黙って背負われてろ。」

パパは、診察券を受付に出して、そのままボクくらいの子達がいっぱいいる小児科の前まで来ると、

一端ボクを椅子に座らせて、おでこに手をのせると眉間にシワを浮かべました。

「…さっきより熱上がってきたな…。」

パパは、上着を脱いでボクを包むと抱っこしました。


「苦しくないか?」

心配そうに…ボクの頭を撫でてくれました。


「…大丈夫ですー。…パパあったかいです…。」

…パパありがとう…って言いたいのに、上手くお話出来ないです。



ぐったりして重苦しい体をパパに預けて…

…眠くて

ボクは目を閉じました。







「…ろ。…ひろ。」


…遠くで……お父さんの声がするです…。



「………い…です…。」

一生懸命目を開けると、お父さんが心配そうにボクを覗き込んでいました。


「……お父さん?」


「良かった。気がついた…。」


安心したように、白衣を着たお父さんが笑いました。


まわりを見回すと…真っ白なお部屋で…


ボクはお布団の中にいました。


「…ボク…どうしたですか?…パパと一緒に病院に来たのに…。」


お父さんは、ボクの服のボタンを2つ外すと

「ひろはね…、熱がいっぱい出てたから、様子を診るのに入院したんだ。検査しても今流行ってるやつじゃなかったしね。……心配したんだぞ。なかなか目を醒まさないから…。」


服の隙間から聴診器でボクの胸をペタペタしながらお父さんが言いました。

「…ごめんなさいです。」

「くすくす。ヒロさんも謝ってた…。」

お父さんは、肩を竦(す)めながら苦笑いしました。

「…どうしてですか?」

「ひろが、こんなになるまで気づかなかった…って。」

「…っ…違うです。急に熱が出たです。パパのせいじゃないです…。」


「…わかってるよ。それに、謝らなくちゃいけないのは俺だよ…。」


「……お父さん?」


「ひろが熱を出したって…そばにいてやれなかった。俺は何も知らないで、病院(ここ)にいて…ヒロさん1人にやきもきさせてしまって…。」

お父さん…そんなに悲しそうな顔しないで下さい。

「ボクお熱が下がったら大丈夫です。」

パパにもいっぱい心配かけたです…。


「…あれ…パパは?」


「ああ、ひろの着替えと泊まる準備をするのに家に戻ったんだ。俺がいるから大丈夫だって言ったんだけど、ヒロさんが…絶対今晩は付き添うって…。」

「パパ…優しいです。」

「うん。そうだね…。…あ、それから今日は注射と点滴するからね。」


お…お注射嫌いですーっ!


「お注射は痛いから嫌です…。」

もごもごと小さな声で言うと、

「大丈夫。ほら…小さいやつだし、打った方が早く良くなるよ。」

お父さんは、優しく笑ってボクの腕をとると、あっという間に終わらせてしまいました。



お父さんのお注射は、とっても上手で…全然痛くなかったです。


その後お父さんは、ボクが眠るまで…手を握っていてくれたです。








どのくらい眠ったのか、ボクが目を醒ますと…
カーテンの向こうからパパの声が聞こえました。


「……っぁ…バカ……お前…ここをどこだと思っ…はぁ……///。」

…パパ…病院ですよ?


「…しー…声を出したら、ひろが目を覚ましてしまいますよ?」

……………なにしてるですか?


「…ぁ…っん…だっ…て…野分が…っ」

「ヒロさんの体…すごく熱いです…。」


………パパもお熱出たですか?


「……ぁ…ゃだ……野分っ…それ…ダメ…っ。」

「大丈夫です。痛くないようにしますから…」


パパ、大丈夫です。

お父さんは、とってもお注射上手です。


「…んな…でかいの……無理……っん…///。」

あ…パパは大人だから、お注射も大きいんですね…。

「………すぐ……よくなりますから…。」


「……ぁ…っ……野分……苦し…っ…」


パパ、我慢するです。

「ヒロさん…全部挿いりましたよ……。」

「…っぁ…ちょっ…待っ…ずっと……してなかったから……///。」

パパは具合悪くても、あまりお医者さんにかからないから、お注射も久しぶりなんですね。


「…いいですよ。…いっぱいしましょう…。」


「……ぁ…っ……ゃだ……野分…///。」


お父さんにいっぱいしてもらって、早く元気になるです。



………でも…パパは、我慢してたです。必死に堪えるように曇(くぐも)った声を出し…暴れているのかシーツの擦れる音がずっとしてたです。


パパ頑張るです。






そして…いつの間にか、眠ってしまったボクが目を覚ました時は、もう朝で…

ベッドの傍にいてくれたお父さんにご挨拶しました。


「…お父さん…おはようです。」


「ああ、ひろ。おはよう…。」

お父さんは、ニコニコと挨拶を返して、ボクのおでこに手をあてました。

「良かった。下がってるね…。」


「はいです。ボク元気ですー。…パパは?パパもお熱出したです。大丈夫ですか?」


「…え?」

お父さんはキョトンとしました。


「夕べお注射したです。パパ…お熱下がったですか?」

「あ…。…えっと…まだ寝てるよ。」

隣のベッドを指差すと、お布団から、少しだけパパの髪の毛が覗いていました。


「大丈夫…ですか?」

「うん。大丈夫だよ。夕べいっぱい愛してあげたから…疲れてるだけだよ…。」

お父さんは、幸せそうに笑いました。

「…お注射じゃなかったですか?」


「うーん。…注射じゃなくてね…セッ…」

「野分っ!それ以上言ったら、ただじゃおかねぇっ!」


突然、パパの怒号が響きました。


…パパは、とても元気でした。



その日の午後、ボクは無事に退院しました。


知恵熱だそうで、心配ないそうです。


帰りは、パパとお父さんと一緒でした。


不謹慎かもしれないけど…熱のおかげでカッコイい白衣姿のお父さんも見ることが出来たし、パパの愛情もいっぱいもらって、ボクは…とっても幸せ者です。



+おわり+




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ