エゴエゴ

□ボクのパパとお父さん13
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今日は、パパと一緒に本屋さんに行きました。


パパは、相変わらず厚い本がたくさん並んでいる棚の前で、真剣な顔をしています。

「…パパ。今日はボクの本を買いに来たです。」

パパの上着の裾を引っぱると、ハッと気づいたようにボクを見ました。

「あっ…そうだったな。」



………パパは、本屋さんに来ると“自分の世界”という所へ行ってしまいます。

3人で来るとお父さんは、そんなパパを優しく微笑みながら眺めています。

でも、今日は…そうはいかないです。

「本を買って早く帰らないと、お父さんが帰って来てしまうですー。」


「…悪かったよ。今日は、久しぶりに野分が帰って来るんだもんな。早めに夕飯作っとかなきゃな…。」

パパは、ボクの手を握ると目的の本が並ぶ棚へと向かいました。


“ ストレスから解き放たれたパンダ ”

ボクがその絵本を手にとると、パパが不思議そうな顔をする。


「ひろにしては…珍しいタイトルだな。」


パパは、パラパラと絵本をめくりました。

「はいです。この絵本は、幼稚園のお友達の紅馬(こうま)君に見せてもらったですが、面白かったので何回も読みたいですー。」

「…そうか。」

パパは、ボクの頭を撫でてニッコリ笑いました。

「パパ?どうしたですか?」

「いや…大切にするんだぞ。」


パパはそう言ってレジに足を向けました。

「はいですー。」

ボクは、返事をしてパパについて行きました。



ずっと欲しがった絵本を買ってもらって、とっても嬉しいですー。


「ひろ、あまりはしゃぐと転ぶぞ。」


「へへっ…///。大丈夫です。…っ…わっ。」


「ひろっ!」


躓いてしまったボクにパパが咄嗟(とっさ)に手をのばしてくれたのに、掴み損ねたですーっ!

転ぶですっ!

ギュッと絵本を握りしめると、ふわりと体が宙に浮き上がりました。


「ふーっ。間に合った…。」

ホッとした声で抱き上げてくれたのは、お父さんでした。


「お帰りです、お父さん。助けてくれてありがとうですー。」


「ひろ、気をつけて歩かなくちゃダメだろう。」

………叱られてしまいました。


「ごめんなさいです…。」

「…うん。」

お父さんはニッコリと笑うと、そのまま抱っこしてくれました。

「野分…お帰り。早かったな。」

久しぶりにあったパパに…お父さんは嬉しそうに顔を近づけました。


「…はい。ヒロさん、ただいまです。」

「わわっ…///。お父さんダメですーっ。お帰りのキスは、おうちに帰ってからにして下さい。」


小さな声でいうと、お父さんがクスっと笑って「それは残念。」とボクに耳打ちしました。



「何やってんだよ。ひろが風邪引いちまうだろ。帰るぞっ。」

「はい。ヒロさん。」



…パパは、いつもお外でいっぱい遊んで丈夫な体を作りなさい。…って言うのに

…今日はヘンな事いうです。

それに、ボク寒くないです。…だって抱っこしてくれてるお父さん…とってもあったかいのに。



ズンズン1人で前を歩いて行くパパの背中をお父さんと見ながら、揃って首を傾げました。

…なんだか…パパ怒ってるみたいです。







お家に着いてもパパは黙ったままで…


「お父さん、…パパどうしちゃったですか?」

「…うん。ご飯一緒に作ろうと思ったのに、1人でやるからいい…って」

困り顔でお父さんも肩をおとしました。


「せっかく、お父さん帰ってきたのに…パパは、どうしちゃったですか。」


今、新型インフルエンザという病気が流行っていて…ずっとお父さんはお家に帰れませんでした。




「はぁ。…俺、ヒロさん怒らせるような事したのかなぁ?。」

「するもなにも…お父さん、ずっとお家にいなかったです。そんな事出来ないですー。」


並んでソファーに座るボクとお父さんは、眉間にシワを寄せキッチンに立っているパパを見ると、不意に顔をあげたパパと目が合いました。


「………なんだよ。」


「…いえ。あの…ヒロさん…やっぱり手伝います…。」

お父さんが立ち上がると

「…いいって。黙って座ってろ。もうすぐ出来るし…。」

返事をしたパパは、ふいっと顔を逸らしてしまいました。

……やっぱりご機嫌ななめです。


「…ヒロさん。俺なにか気に障ることしましたか?」

お、お父さん、直球勝負ですかっ!?


「べ…別にっ…///。」

……あれ?

パパ…赤くなったです。

…カタン。

…お父さん?

椅子から立ったお父さんは、パパのそばに行くとぎゅっと抱きしめました。


「…ヒロさん。」

そして、そっとパパの顔をあげると優しいキスの雨を降らせました。

「な…なんだ!?野分…///。おいっ…んっ…///。」

わーっ///。お父さん大胆ですーっ。

………そういえば、お帰りのキスしてないです。

ボクは、いちゃいちゃのお邪魔虫にならないように、テレビのスイッチを入れました。どうぞ、ごゆっくりですー。







少しすると、お父さんがボクを呼びました。

「ひろ、ごめんね。お待たせ…。冷めないうちにご飯食べよう。」

「はいですー。…お父さん…、パパのご機嫌は、なおったですか?」

「うん。大丈夫…。元々怒ってたわけじゃなかったみたいだから。」


小さな声でやりとりしていると、

「…おい、そこっ。食べる気あんのか?」


パパがご飯をテーブルに並べながらボク達を呼びました。

その声音はご機嫌です。

「食べるですー。ボクお手伝いするです。」

「おぅ。じゃあ、これ並べるんだぞ。」

「はいです。」


ボクは、パパからお茶碗を受け取りテーブルに並べました。


今晩は、お鍋で…パパとお父さんと3人で、ハフハフしながら沢山食べました。

パパの作ってくれた、きりたんぽのお鍋は、とても美味しいです〜。



お腹もいっぱいで眠くなってしまったボクは、パパとお風呂に入って…お父さんが用意してくれた湯たんぽでぬくぬくのお布団に潜り込みました。




いつの間にか眠ってしまっていたボクは、パパ達の話し声で目を覚ましました。



「…ヒロさん…もう2本入りましたよ。」


……2本?


「…っ…野分…っぁ……もう……ゃ…ぁ…///。」


「…どうしてです?…ヒロさんのここ…美味しそうに頬張ってますよ?」

……お夜食に…きりたんぽのお鍋ですか?


「ばか言え…///。んなわけ…ない……ぁ…んっ」

…そうですよ。

…パパは、きりたんぽいっぱい食べたです。

「………ヒロさん。今度は…俺のをあげます。」

……お父さん。パパは、もうお腹いっぱいなんです。

「…っあ……の…わきっ……デカくて…苦しっ…。」

……ほら。

…パパ…お腹壊してしまいますよ。

「……ヒロさん…愛します…。」

「……はぁ…はぁ…野分っ…もっ…ダメっ!」

「…ぁっ…ヒロさんっ……俺もっ…。」

…パパもお父さんも…食べ過ぎちゃダメです。






次の日の朝、パパは、何故かお腹ではなく腰を抑えていました。

「パパ…腰痛いですか?」

…てっきりお腹が痛いと思っていたです…。

「ヒロさん…大丈夫ですか?」

「…このやろっ///。どの口がそれを言うっ!」

顔を真っ赤にしてパパが怒りました。

「そうですよ。夕べ、パパに無理にきりたんぽ食べさせたからですー。」

「え?…きりたんぽ…?。ああ…それはね…」

ゴキッ!

うわっ!パパの拳(こぶし)炸裂ですー。

「のーわーきーっ!てめぇ、ひろに何を言うつもりだっ///。」

「…いえ…あの…ヒロさんが、もっと早くキスしてと言ってくれれば、寂しくさせなくて済んだのにと…。人前なんて気にしないでキスしてしまえば良かったです。」


お父さんが、そういうと…パパは、ますます真っ赤になって、

「…いや…気にしてもらった方が…。むしろ気にしてくれ…。」

…そうかぁ…。


昨日、パパは怒っていたのではなくて、「ただいまのキス」をして欲しいって言えなかったですね…。

さすがお父さんです…。パパの気持ちに気づいたですねー。


やっぱりパパには、お父さんが必要ですー。



(おわり)




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