エゴエゴ

□ボクのパパとお父さん20
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今日は、お揃いの浴衣で花火大会にやって来ました。

「パパ、人がいっぱいですー。」

「当たり前だろ。花火大会なんだし…。怖いなら抱っこしてやろうか?」

「あ、俺の肩に乗せますよ。ひろアイス持ってるし、ヒロさんの浴衣にこぼしたら大変だからお父さんのところにおいで…。」

「はいですー。」

ボクを肩に乗せようとしたお父さんに、

「野分、ひろはオレが乗せるよ。」

「ヒロさん?」

「ひろだって、たまにはパパがいいだろう?」


そう言って、パパはボクを抱き上げ肩車してくれました。

お父さんの肩車も高くて好きですが、パパの肩車は久しぶりなのでワクワクですー。


「パパありがとうですー。」

「うん。」

「じゃあ、お願いします。疲れたら代わりますから言って下さい。」


「あっ、パパ。ボク、パパの頭にしっかりつかまってますから。お父さんと手をつないでも大丈夫ですよ。」

ボクのパパとお父さんはラブラブなので、きっと手を繋ぎたいです。

「ひ…ひろっ///。」

パパはテレ屋さんなので、すぐに頬っぺが赤くなるです。


「くすっ。ひろ、ありがとうね。」

お父さんは、にっこり笑ってボクの頭を撫でてくれました。

「えへへ…///」





今日は、花火を見る人がいっぱいで…座る所がなかなか見つからないまま花火が始まってしまいました。


大きな花火があがるたび、みんな夜空を見上げます。


「きれいですー。」


「そうだな。……っ!?」

パパが返事をしながら、ビクンと体を震わせると、くるんと後ろを振り返りました。

「……野分っ///。」

パパは、ボク達の後ろに立っているお父さんを睨みました。

「…パパ?どうしたですか?」

「な…なんでもないっ///」

「ひろ、上を見てごらん、また上がるよ。」

そう言ってお父さんが、お空を指さしました。


ピカピカと小さな光が上に登って行くと、ぱぁーと花火が開いて明るくなります。


「…わぁ。」

とってもキレイですー。


「……んっ…///」


………へっ?

パパが、また小さな声を漏らして体を固くしました。

「………パパ?」


ふと、ボクの足元がもぞもぞと動いているので覗こうとすると、


「ひろ、また上がったよ。」

「はいです。」


お父さんに言われ、慌てて顔をあげると大きな花火が広がりました。

「すごいですー。キレイですー。」

「…んっ…はぁ…///。」

パパも、うっとりとした声をあげるくらいキレイな花火です。

「パパ、これはなんていう花火ですか?」


「え…///?こっこれは、菊の花のように尾引いて広がるから、…っ…///…って、おい野分っ、やめろって!」

「パパ?」

「なっなんでもないっ///…あっあれは、“菊物”って呼ばれてるんだ。」

「“菊物”ですかー。」

パパは何でも知ってるですー。

「ひろ、今度はお父さんのとこに来るかい?」

お父さんがそう言うと、パパが慌てました。

「野分っ。なにする気だっ!」

「………なに…って、肩車ですけど?」

いたって普通にお父さんが答えると、

「………そうか。」

パパは渋い顔をして、ボクを肩から下ろすと、お父さんが受け取って肩に乗せてくれました。


お父さんは、とっても背が高いのでたくさんいる人の中でも見晴らしが最高です。



「わっ!」

ドンっと、すぐそばで大きな花火がひらくと

体にズシリと来る花火の音にビクッとしちゃうです。

さっきからパパも同じみたいで何回となくビクっとしています。


「パパ、すごい音ですねーっ。」

「……ぁ…っん///……はぁ…っ…。え?…ぁぁ…そ…そうだな…。」


ボク達の前に立ってるパパは、お父さんに寄りかかり花火の美しさにウットリとしてるです。


「……ん…っ///……も…や…ぁっ…」


「パパ、どうしたですか?」

パパが苦しげな声で背中を丸めます。

まわりに人がいっぱいいるので、気持ち悪くなっちゃったですか?


「ひろ、大丈夫だよ。パパはね…綺麗な花火を見ていて、…ちく…じゃない、クビがちょっと疲れただけだから…。」

お父さんが、そう言うと、

「野分っ、てめぇ!」

………パパ、なに怒ってるですか?


「………パパ?」

「な…なんでもない///。」

なんだか、パパ…ヘンです。


「あ、ほらヒロさん、また上がりましたよ。」

「…お…おぅ。」

今度は、パーっと開きましたが…さっきのとは、ちょっと違うみたいです…。

「パパ、この花火も“菊物”ですか?」

「おー。ひろ、気づいたか。これはな、尾を引かないから牡丹の花に喩(たと)えて“牡丹物”っていうんだ。ちなみに二重に広がるものは“芯物”って呼ばれてる…。」

パパ、すごいですーっ。

「…へえ。そうなんですか、俺知りませんでした。」

お父さんも感心しながら空を見上げていると、


会場アナウンスが流れてきました。


『今年の花火大会は、株式会社宇佐見建設様より、花火を御覧の皆様へ暑中お見舞いとの事で多大なる打ち上げ花火の御寄付を頂きました。花火のお題は“華麗なる一族”です。では、どうぞー』

「宇佐見建設…?秋彦の兄貴んとこだ…。」


パパがそう言うと、

「…宇佐見さん縁(ゆかり)の…人ですか。」

低い声でお父さんがそう呟きました。

……?…お父さんも知ってる人ですか?


音楽が流れ…それに合わせて下から一斉に花火が真っ直ぐ吹き上がって、たくさんの大きな花火で周りが明るくなりました。

「うわぁぁぁ!すごーい!すごいですーっ!ねーパパっ!………パパ?」

パパは、下を向いてもじもじしています。

せっかく、綺麗なのに…。

「お父さん、パパ…花火見てないです…。」

お父さんに耳元に話かけると、

「ひろは気にしないで花火を見てていいよ。パパは花火の明かりが眩しいのかもしれないし…」

「…そうですか。」


こんなに綺麗なのに、もったいないです…。


空を眺めていると、お父さんが何かもぞもぞしています。


「お父さん?」

「うん?。なんでもないから花火見てていいよ」

「……?…はいです。」

ボクが空を見上げると、またお父さんがもぞもぞ動き出しましたが、気にせず花火を見ることにしました。


「……んっ…ぁっ…ん……野分…ゃめ…ぁっ///」




…………。

…なにやってるですか?


パパの甘ったるい声がしたので、下を見ようとしましたが、クライマックスに差し掛かり目が離せないですー。







一際大きな花火が夜空を彩った後、空が真っ暗になったので下を見ると


お父さんが手のひらをペロリと舐めていました。

「お父さん?なに舐めてるですか?」

「ああ、アイスが少しこぼれたみたいだ。すごく甘い。」


……ボクのは、練乳がけのかき氷じゃないです。

「のーわーきーっ!」


息を乱したまま、少し屈んだ姿勢のパパがお父さんを物凄い顔で睨んでいます。


「パパっ、どうしたですかっ!具合でも悪いですかーっ!?」


「…ぁ///…い…いや…そういうんじゃ…。」


「………花火みたいに瀑じけちゃっただけですよね…。」

くすっ…と、小さく笑ったお父さんは、またペロリと指先を舐めました。

「……お前…それやめろって…///。」

「どうしてです?とても…甘くて魅惑的な味なのに…。」

………どんな味がするですか?

ボクの溶けかかったアイスは、甘いけど魅惑的な味はしないですー。

「お父さん…ボクもそれ舐めてみたいです。」

ボクがおねだりすると

「ばっ、ばかっ、ひろっ!それはオレのっ…///。」

「……パパの?」

なんだかわからず、ボクが首を傾げると、


「これは大人の味だから、ひろには…まだちょっと早いかな…。」

と、お父さんが答えました。

……………。

………練乳は大人の味じゃないです。


「だから、ひろが大人になったらね。」

そう言って、幸せそうな顔をしたお父さんは、最後の一滴を舐めました。

……大人にならないとわからない味ですかぁ。

「はいですー。ボク早く大きくなって、大人の味がわかるようになるですー。」

「……ぃゃ…わからなくていいから……。」


そう言ったパパの姿を見ると、浴衣の胸元も裾も妙にヨレヨレで…。

それに気づいたお父さんは、

「おっとっ…。」

着崩れたパパの浴衣をテキパキと直しました。


花火の帰り道…お父さんの背中で、ウトウトしていると…


「ヒロさん、来年もまた3人で来ましょうね。」

「お前が、あーいう事を二度としないってなら行ってやってもいいぞ。」

「えー。ヒロさん気持ち良さそうだったのに…」

「うるせぇ!それとこれとは話が別だっ!」


…ケンカしてるみたいですけど

ボクのパパとお父さんは、こう見えて…とってもラブラブなんです。

来年の花火も…今から楽しみですー。



(おわり)

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