FF\ 短編小説

□夜の街には危険がいっぱい?
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――眠らない街、トレノ。

この世界、『ガイア』に存在するありとあらゆるものが集まる、世界最大の貿易都市。
それらをめぐって、毎夜オークション会場では紙屑の様に紙幣が飛び交い、時には、有数の貴族達が娯楽の為に主催する、カードゲーム『クアッドミスト』の大会が開かれたりもする。
『眠らない街』とは、非常に日が短い故に付けられた名前なだけではないのだ。
世界人口のほとんどが眠りについたころ、この街はようやく絶頂を迎える。
煌びやかなイルミネーションはいつまでも消えることはなく、当然、賭博場やオークション会場の灯りも消えることはない。
指折りの貴族達が住む、夢多き街。


――とは、世界の表面上の評価だ。


「結構危ない所もあっからな、此処は」

隣を歩くパックが、呟いた。
相変わらず厚着したがらないパックは、冷える夜も日中と大して変わらない服装だ。

「そうだろうね。世界中の物が集まれば、悪い物も集まるはずだ」

逆隣を歩く288号が、納得したように頷きながら返答する。

いつもの黒魔道士のローブだが、今日はとんがり帽子を被っていない。
理由は複数あるが、一番の理由はやはり、黒魔道士だと悟られたくないからだ。
あの忌まわしい戦争からもう大分経ったが、人々の記憶から黒魔道士への嫌悪は消えていない。
故に、不本意だが、街に出る時は帽子は被れないのだ。

「そうかなあ。おじいちゃんと一緒の時は、全然危なくなかったよ?」

そして、それは彼等の間を歩く、小さな少年も同じ。
歩く度にさらりと揺れる、艶やかな黒髪。
何処までも優しく、何処までも純粋な、金の瞳。

それらを持った小さな少年、ビビは、彼等の発言に首を傾げた。

「……それはお前のじいさんが普通じゃなかったからだと思うぞ」

パックが、ふうっと溜め息混じりに突っ込む。
しかしビビの方は依然首を傾げたままだ。

「確かに、おじいちゃん、ちょっと変わってたけど……」

それがなぜ、安全に繋がるのか、ビビには理解できない。
何か、危ないところを助けてもらった記憶もない。

結局のところ、あの異様な体躯の老人が『魔除け』として働いていたということだが。

「おじいさんが、ビビくんを守ってくれていたってことだよ」

288号が、無難にまとめる。
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