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□微熱
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「……神サマも風邪引くんだなァ」
心底呆れたという様子で、アマテラスの鼻の上に仁王立ちしたイッスンが言う。
アマテラスが風邪を引いた。
常のようなやる気なさげな様子とはまた違っただるさを携えて、賽の芽の下に横たわる。
「まったく、まだお天道様があんな高いうちからだれてたんじゃ大神様の示しがつかないぜェ」
力なく地に顔をつけるアマテラスの額に、すぐそばの小川で濡らした布切れをあてがう。
ほとんど気休めだが、やらないよりはマシだ。
熱を持った弱々しい瞳が見上げてくるのが、ほんの少し――気の迷いだろうが、可愛いと思った。
――いや、犬コロとしてはそりゃ可愛い顔してんだろうけどさァ――
なんというか、自分が感じているのはそういうことではない気がする。
って、何考えてるんだか。
その眼差しにイッスンを責めるような色が浮かんでいたからか、はたまた自分らしからぬことを考えた自分が気に食わなかったか、イッスンはちょっと眉をつりあげる。
「大体よォ、泳げないことをからかったぐらいでムキになるこたァねえだろォ?」
イッスンはいつもの呆れ顔で、茹だるアマテラスの前で腕を組む。
アクシデントの八割はアマテラスが悪いと常々思うイッスンだが、今回もそう思った。
いちいち蓮神の力を使わなければ川を渡れないアマテラスを少し――あくまでもイッスンの尺度でだが――いびると、ムキになったアマテラスは蓮を断神の力で切り裂くと身一つで川を横断し始めたのだ。
その辺の小川なら問題はなかったのだが、少々「小川」というには大きすぎた。
結果はご覧の通り、である。
「……まァ、オイラも少しは悪かったけど」
イッスンが、ばつが悪そうに頬を掻く。
体調のせいか、いつもよりアマテラスが反抗しないから、イッスンの方も何となくやりにくいのだ。
人をからかうのは好きな方で、辛口な自分を別段問題視はしていないが、流石に今のアマテラスをぐだぐだと弄るのは気が引ける。
――オイラも、今日は変だなァ――
「早く元気なってくれよなァ、アマテラス大神様」
声にはいつもの調子が宿っていたが、イッスンの表情には呆れた色は浮かんでいなかった。