その他小説

□こどもがえり。
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九月に入った頃のことである。

九月になったとはいってもまだまだ暑い日は続き、幸春はある日いつものように友達と川へ遊びに行った。
その日も何の変わりもなく遊んでいたのだが、途中から友達のうちの一人が新しい遊びを見つけ、幸春たちは夕方暗くなるまで熱中した。
少しずつ時間が経つにつれて、門限を間近に控えた友達が次々と帰っていく中、幸春は解散になる時まで残っていた。
水の冷たさは気にはなっていたが、寒いと感じるほどではなかったので、家の近い子供たちは門限ギリギリまで遊んだ。

結局解散になったのは六時を回る少し前。

まだ暑いとばかり思っていたのだが、陽が落ちると幸春が想像した以上に涼しくなっていた。
肌を撫でる風が、濡れた身体を急速に冷やす。
急いでタオルで水滴を拭き取り、着替えて帰った幸春だったが、やはりというべきか。


「──37度7分」

読み上げられた数字に、幸春は緩やかに息を吐いた。

「良かったじゃん。大分熱下がったよ」

幸春の横たわる布団の脇に座った孝之助が、体温計を示して笑った。
幸春はちらりと体温計を見るが、落胆したようにまた溜め息を吐く。
と、喉を息が通った拍子に咳き込んだ。
その弾みで氷嚢がずれたのを、孝之助が直す。

「全然良くないよ。今日も遊ぶ約束だったのに」

幸春は、ふいと顔を背けながら言う。

「まあまあ。今日は大人しく寝て、また遊べばいいじゃんか」

孝之助はからからと笑うと、拗ねたように唸る幸春の頭を撫でた。
ぴょこんと跳ねた頭頂の毛が揺れる。
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