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□月に吠える
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「お、オイラただ考え事をしてただけでやすから……」
依然笑い続けるバリーに、すっかり赤面したガブが弁解する。
するとその声を境に、バリーの声がぴたりと止んだ。
「……まあ考え事をするのは自由だがな」
一瞬にしてその場の空気が冷える。
否、凍てつく。
からかうような顔から一転、バリーは本来の物騒な面を覗かせた。
「それを理由に狩りに支障が出るようなら、お前をこの群れから外さなきゃならねえ」
ぞくり、と背筋に冷たいものが走り、自然と背筋が伸びる。
鋭い眼光で貫かれて、ガブは硬直していた。
今のバリーの瞳は、先ほどまでの気のいい兄貴分ではなく、間違いなく狩人の瞳だった。
「ここ最近ずっと失敗ばかりじゃねえか。昨日みたいな失態を次も晒してみろ、ギロさんにどやされる程度じゃ済まねえぞ」
ドスの効いた声で低く突き付け、誰もが震え上がるその瞳で睨む。
「……へえ、もうあんなヘマは絶対しないっす」
その眼光に身を射竦められながらも、ガブは頷いた。
それを見ると、バリーはふっと表情を戻す。
途端に、緊張の切れたガブの全身からどっと汗が吹き出た。
「まあさっきも言ったが、何を考えようと自由だ。自分の役目をしっかり果たしゃあ良い。誰も文句は言わねえ」
バリーはくるりとガブに背を向けると、首だけを向けて一瞥した。
「近々また狩りがある。今日はさっさと頭を冷やして寝るんだな」
そう言い残して再び自分の寝ていた岩場に戻って蹲る。
疲れているのだろう、バリーが寝息を立て始めるのは早かった。
その姿は、いつもの気のいい兄貴分のバリーに見える。
が、ガブは顔を曇らせたまま、森へ入っていった。
警告、なのだ。
バリーは、ただ経験や実力でナンバー2の地位にいるのではない。
バリーの真髄は、反乱分子や異端分子を尽く抹殺する冷酷さにある。
追跡においては右に出る者はなく、それ故に今まで群れを裏切った者は全て見せしめとして抹殺されている。
裏切りでなくとも、今後を左右するこの時期に動きの鈍い者がいれば、それだけで群れを危険にさらすのだ。
今度同じ失敗をするようなら、何らかの制裁が加えられるだろう。