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□灯A〜艶ver.〜
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何度目かの千尋の徘徊を引き止めて腕に抱える。それに千尋は嬉しそうに笑って、忍人に抱きついて来る。

普段の千尋の凛とした王の姿からは想像できない状態だ。


その揺らめく様な動きに合わせて、鼻先を擽る甘い芳香を静かに胸に吸い込んで、
「仕方のない人だ…君は…」と苦笑交じりに答えながら、その温もりをあやす様に腕に抱く。

「そう言えば、采女達はどこに行ったの?」
「先ほど退室しただろう。覚えていないのか?」
千尋の問いかけに静かに答える。それに千尋は「そうですか」と大して気に止めた風でもなく頷いた。

「じゃあ、今は忍人さんと私だけですか?」
「そう言う事になるな。……喉は乾かないか?」
そう…と忍人の声に頷きながら、千尋がまた忍人の胸に頬を寄せてクスクスと笑う。
そんな千尋の様子に、忍人もそっと口元を引き上げる。

「楽しそうだな…君は」
「分からない……。でも、何だか嬉しい……」
「嬉しい……?何がだ?」

その問いかけに、答えは返らず、代わりに頬を伝い上がり、髪に差し込まれる細い指が辿る軌跡をそっと息を詰めて受け止める。


ゆらゆらと炎が揺れ、静かに身を寄せ合う二人の姿を室内の壁が影として映し出す。
腕の中にいる柔らかな温もりが、つ…と伸びあがり、次の瞬間。


「――こうして、あなたといる事が……」
ふふっ、と小さく笑みの形に歪められた唇が静かに己の唇に触れて来る。
まるで、小鳥が啄むような仕草で触れられた個所に、瞬時に熱が起きる。

「……幸せ……」
忍人が何かを言う前に、その唇の自由を一瞬だけ奪い、驚いたように瞳を見開いた刹那、温もりは離れて行く。
そして満足そうに千尋は笑う。

常とは違う、艶めいた光を宿した瞳が、そんな彼の視界に映るのを、どこか惜しい様な心地を感じながら見返す。


「―――千尋……」
艶めいた光は一瞬遠のき、代わりにその瞳の面に浮かぶのは、まるで悪戯の成功した後の様な童女のような、あどけない光。
その落差に、また胸の奥にドクリと沸き上がるかのような、甘い熱と疼き。

「ちひ……っ…!」

名を呼んだ忍人の少し掠れた、けれども嗜めも含んだ声に、また千尋は嬉しそうに微笑むと、忍人の唇を啄んだ。

そして、また離れようとした瞬間。

今度はそれを受けた忍人の腕に力が入り、それを許さないとばかりに千尋を腕の中深くに抱きこんだ。

「……っ、んっ……」
そして驚いて身を固くした千尋の体の自由をいともたやすく奪うと、今度は此方から噛み付く様な、深い口付けを与える。
急に奪われた呼吸を取り戻そうと、一瞬開いた唇の隙間から口内に侵入すると、うろたえる様に逃げた小さな舌先を捕まえ、絡め取る。


片腕でしっかりと彼女の腰を押さえ込み、その華奢な背から首筋へ。
そしてその黄金色の髪へと手を滑らせ、絹の様なその髪の一筋を無造作に指に絡めて更に深く引き寄せれば、

抵抗を止めた千尋の細い四肢は力なく落とされ、今度は与えられる口付けに応える様に蠢いて、忍人の背に巻きつく。


埋められた距離と、近づいた熱に、忍人は口付けの最中に唇を引き上げると、それを一瞬離し、角度を変えその甘い千尋の唇に、再び噛み付いた。
長く深い口付けに、くたりと脱力して凭れた千尋の身をしっかりと抱き止めて、そっと口付けから解放する。


二人の間に引いた銀の糸が、細く伸び、音もなくぷつりと途絶える。


「は、あ……」
喘ぐよう大きく息を吸う千尋の様子を瞳を細める。

「酔っている君は、とても可愛らしいが……」
そう言って、忍人は唇の端に付いた口付けの余韻を、ゆっくりと親指の腹で拭いながら、熱に浮かされたかのような対の蒼瞳を見つめる。


「誘いかけるようなそんな仕草……。できれば、他の男の目には触れさせたくはないな」
「おし、ひと…さん…?」
未だ先ほどの口付けの余韻で上手く呼吸が整わないのか、千尋の驚いたような蒼瞳が揺れる。


どこかぼんやりしたような千尋の表情がより一層、忍人の中の苛虐心を擽る。

「わ、私…そんなつもりは……」
はっと酔いが醒めたかのような顔で、慌てて弁明をしようとした千尋の顔が瞬時に夜目にも分かるほどに赤くなる。
それに忍人は苦笑にも似た表情で一度目を伏せる。

暗い室内に灯された灯りの加減か、伏せた忍人の睫毛の下に影が生まれる。



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