Treasure

□お誕生日にいただきました。家宝です。
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『Crazy For You〜あなたに狂う〜』

「きれい…。」
天鳥船の堅庭。千尋は一人。空を見ていた。最近、こうして夜の星空を見る事が日課になっていた。
すいこまれそうなほど澄んでいて深い藍色の空。その色は最近、心に淡く想っているあの人の瞳と髪の色と同じで…。
見ていると心が和んでくる。今、あの人は何をしているのだろうか?そんなことを思っていると。
「此処で何をしている!」
突然、背後から声をかけられた。
びっくりして振り向くと今、正に心に思っていた人が立っていた。
「忍人さん。あの、どうかしましたか?」
いつもはもう彼は堅庭にはいない時間帯のはずなのでそう問いかけてみたが
「それはこちらの科白だ。君こそこんな夜中に共も付けずに一人で。何度言ったら解るんだ!」
と叱責を受けてしまった。
ごめんなさい、気をつけます。と謝る。
「謝罪は良い。それでこのような所で何をしていたんだ?」
「えぇ、と。空を見ていたんです。」
「空?」
「星がとってもきれいだから。」
そう言ってまた空に目を移した。それにつられるように忍人も空に目を向けてみる。
そこには満点の星が瞬いていた。確かに美しいと思う。そう、思っていると
「忍人さんも一緒に星、見ませんか?」
と千尋が誘ってきた。

「何を言っている。こんな夜更けにいつまでもこんな所にいさせる訳にいかない。」
そう言って却下する。
「お願いします。あと少しで良いですから。」
そう懇願されれば忍人とて断れない。好意を抱いている相手と一緒に居られる機会である。少なからず鼓動が高鳴った。
「解った。少しだけだからな。」
と了承した。
「しかしかなり外気が冷えている。これを羽織ると良い。」
そう言って自身の衣を千尋に羽織らせた。


「本当にきれい。」
星を見上げてうっとりとした表情でそうつぶやく千尋。
星を見ている千尋の横顔を横目で見てまた心臓の鼓動が一際強く高鳴った。
満天の星空も綺麗だがそれよりもその星空を見上げる千尋の方が美しく見えた。
「綺麗だ。」
我知らず口から出た言葉。
それに対して、え?と反応を返してくる千尋。
はっと我に返り言い訳めいた返答を返してしまう。
「あ、いや。星が、だ。」そう言われた千尋もそうですね。と少し紅い顔で微笑み返す。
それからはどちらからも話すことはなく。星を見ていた。
しばらくして肩に心地よい重みを覚えた。
視線をずらし見てみると千尋が肩に凭れて眠っていた。
どうやら眺め疲れて眠ってしまったようだ。

このままにして置くわけにもいかない。
しかしこのような時間に理由はどうあれ女性の寝所に行くわけにもいかない。
そう考え、仕方なく自室で休ませることにし千尋を横抱きにして忍人は自室へと向かった。

自室の寝台に千尋を寝かせ自身は長椅子で休むことにした。
寝台に横たわる千尋はこの闇の中でも月の光を浴びて美しく見えた。
それを見た瞬間口づけたい衝動に刈られたが寸での所で自制する。
そしてあまり意識しないように自身に言い聞かせながら長椅子に勢い良く自身も身を横たえた。


どの位たったのだろうか。
何かの気配を感じうっすらと目を開けてみた。すると忍人の側に千尋が立っていた。
どうかしたのか?と問いかけようとした瞬間…千尋が忍人の上に覆い被さるように倒れ込んできた。
「千尋。何を…する?」
突然の行動の真意を聞こうと問いかける忍人であったが千尋を見てみると自分の上でまた眠ってしまったらしい。
「おい、千尋。何を考えてるんだ!眠るなら寝台で眠ってくれ。」
そう言って千尋を揺すって起こそうとした。しかし反対に首に腕を回されしがみ付かれてしまう。
その上、体を擦り寄せてくるではないか。一端収まっていた鼓動がまたうるさいほどに騒ぎだす。

安心しきった様な顔。
どうやら千尋は寝ぼけて自分を風早と勘違いをしている様だと忍人は思った。
仕方ないのでこのまま寝かせることにした。千尋の黄金の髪に指を通し優しく梳いてやる。
すると何事か呟いた。寝言を言ったようだ、しかし次に発した言葉ははっきりと忍人の耳に聞こえてきた。
「忍人さん…。」
千尋はそう呟いたのである。また鼓動が強くなる。
白磁のような綺麗な顔、淡い紅の様な唇。そしてその唇から紡がれた自身の名前。
もう、忍人は押さえが利かなかった。
しかし千尋を起こさない様にそっとその唇に口づけた。

「うぅ…ん。」
朝、目を覚ました千尋にはいつもと違う感覚がして寝起きで霞んだ頭で考えた。すると
「起きたのだったらそろそろどいて貰いたいのだが。」
と声をかけられた。
いきなり掛けられた声にえ?となり自分がしがみついているモノを見て驚いた。
そこにはかなりの至近距離で忍人の顔があった。
「ひゃあっ!お、お、忍人さん!!」
なぜここに?と突然の状況にパニックを起こす千尋。
そんな千尋に冷静に、ココは自分の部屋で昨夜は堅庭で星を見ているうちに
千尋が寝てしまったので自室の寝台で休ませたのだと話した。

それを聞いた千尋は顔を真紅にしながら迷惑を掛けてしまってごめんなさい。と謝った。
それに対し忍人も自分が勝手にやったことなので気にしなくて良い、と返した。
何となく気まずい雰囲気が漂い視線を反らせて黙ってしまう。
そうしてるうちに千尋は自分がくるまっている掛け布から漂ういつもと違った香りに気が付いてそして確信した。
これは忍人の香りだと。
気づいてからは気恥ずかしい様な気もしたがもう少しこの香りに包まれていたい。
そう思い掛け布をきゅっと引き寄せその香りにしばし酔いしれた。
しかしそんな時間は長くは続かず、なにやら部屋の外から慌ただしい音が聞こえてきた。

忍人は現状を確認するべく部屋の外へ顔をだした。そして通り掛かった兵に何事かと尋ねた。
その兵士が口を利こうとした瞬間、勢い良く風早が忍人にすがり付いてきた。
驚いて何事かと聞き返すと
「千尋がどこにもいないんですよ!!」と泣きながら訴えてきた。
柊もいつの間にかこの場に姿を現していた。そして忍人に心辺りがないか聞いてきた。
忍人にとっては心辺りどころか今、正にその当人が部屋に居るのであるが。
他の者ならいざ知らずこの二人にばれるのは絶対にまずい。そう思い素知らぬ振りを決め込む。

しかし柊はその態度に直感しわざとらしく
「あまり騒ぎ立てるのも兵たちを不安にさせるだけです。
ここは忍人の部屋で話し合いませんか?」
と持ちかけた。その提案にそれもそうだね。と柊と連れだって忍人の部屋へ入って行く。

「ちょっと待て!」
あわてた忍人であるが一足遅かった。
部屋に入った二人に千尋はのんきにおはよう。などと挨拶をした。
なぜこんな所にとと風早が聞こうとした矢先、柊が爆弾を一つ落とした。
「おや、我が君を部屋に連れ込むとは、忍人もやりますねぇ。」
柊何を!という眼で睨んだがさらにもう一つ爆弾を落とした。

「我が君とどこまでなさったんですか?」
そう言われて昨夜の口づけを思いだし顔を紅らめてしまった忍人。
その反応を見て 柊はしてやったりと薄く笑った。
風早はと言うと満面の笑みを称えているが何か黒いオーラを纏い忍人の首根っこを掴み
「忍人。ちょっと良いですか。どういう事か説明して貰えますよね?」
とズルズルと忍人を引きずって行ってしまった。
風早の様子に一抹の不安を感じ柊に事の詳細を説明する千尋。
その彼女に対し柊は存じておりました。と返した。
そんな柊になぜ知ってて風早を煽る様な事をしたのかと聞くと

「その方が楽しそうだったので」
と(怪しげな)笑顔で答えられたのだった。
その後、忍人の顔には殴られた後がくっきりと残っていたという。






蒼樹様お誕生日おめでとうございます。遅れてしまいましたがお祝いの創作を贈らせて頂きます。こんな作品でよろしければお受け取り下さい。

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「 鋼鉄の狐狼」龍明寺 悠さまからいただきました。忍千SSです。
天然なCPの言動に萌えさせていただきました。
無意識に積極的な忍千にニマニマが止まりません。
でもやはり煽る軍師と姫一途な風早の兄弟子っぷりと弄られ、被害に合う将軍に万歳ww
悠さま、素敵な贈り物をありがとございました!

2009.04.12 蒼樹
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