Treasure

□策略と言う大作戦!
2ページ/6ページ

『は?』

柊は、滅多な事では見せないような驚いた顔をした。
それもそのはず、深刻な顔で相談に来たはずのこの国の王から持ちかけられた話が、こともあろうか恋の相談だったからだ。
しかも相手は自分の 弟弟子に当たる虎狼将軍だ。
王がニノ姫と呼ばれていた頃から、忍人に好意を持っていたことは知っていた。
忍人に至っても・・・。
しかし、2人はたいした進展もないまま時を過ごした。
お互いを気遣い、想うだけの関係に苛立ちすらも感じたことはあったが、2人の物語に自分のような者が登場するべきではないと、今まで特に何もしないできた。
心のどこかで、この王の心が自分に向くことはないかと、淡い期待も含めて・・・。

『だから、忍人さんに好きな人とか、今までに付き合ってた人とかいるのかなぁって思って・・・。』

段々と小さくなる声に愛しさを感じながら、そこまで、あの無愛想な男が、と微笑ましくも感じた。

『いきなり、で、ございますね。我が君。なぜ、今更そのような事を気にされるのです?』

柊は千尋の顔を優しい微笑みで見つめながら問うた。
すると千尋は、頬を染め上げ話始めた。

『最近、何通かの求婚の文を貰う様になったの。もちろん、相手は他国の王子だったり、中つ国の豪族だったり・・・。でもね、まだ、この国は安定しているわけではないから、ってお断りはしているのよ。そう、今はまだ。けれど、安定したら、私はどこかの男性と婚姻を結ぶのだと思ったら、頭にあの人のことしか浮かばなくて・・・』

そう言って、千尋は懐から何通かの書簡を差し出した。
どの書簡も丁寧で華美な装飾が施された書簡ではあったが、お世辞にも趣味がいいとは言えない物だった。
送った者の趣味を疑う、柊はそう思いながらも、一通の書簡を手に取り中を見た。
紛れも無く、千尋に対する恋文・・・いや、求婚の文だった。

つまりは、不安ということだろうか?

目の前のまだ少女のような儚さを持つ女性はその美しい瞳に憂いの色を見せていた。
そんな姿も美しいというのに。
まったく忍人は何をしているのかという憤りも感じつつ柊は千尋の肩に手を置いた。

『王としての義務も勿論大切です。けれど、我が君、貴女が全てを我慢する必要などないのですよ。貴女はこの国の王なのですから。』

『柊・・・。』

せめて、この若く美しい王の相手が自分ならばこんな想いなどさせはしないのに、と思う自分を嘲笑うように、柊は微笑んだ。

『その文の中に、我が君が一番欲しい相手からの文は?』

千尋は俯き小さく首を振った。
ああ、まったく・・・。

柊は、千尋に目線を合わせるように跪き、千尋の手の甲に口付けた。

『貴女の心に私が住んでいたのならば、このような想い、決してさせは致しませんのに・・・。』

わざと大げさに振舞う柊に千尋は笑顔になった。

『もう、柊ったら!』

その笑顔を見届けてから、柊は語り始めた。
柊の知る限り、忍人の過去にそのような女人はいなかったこと。
また、今の彼を見る限り、そんな相手は確実にいないのでは、と。
そして柊は、何かを思い浮かべたように微笑んだ。

『ただ、我が君をこんな気持ちにさせるなど、些か許しがたい事ですね。我が君、ここは1つ、忍人の気持ちを確認するためにも1つ・・・』

柊は千尋の耳元で囁いた。
その言葉に千尋は、頬を染めながら、駄目だと呟いた。

『我が君、では、今のままでよろしいのですか?』

柊の妙に艶を帯びた微笑に逃げ場を失ったかのように、千尋は小さな声で『ふり、だけだよ。』と囁いた。
千尋のその言葉を聞いた柊は、幸せな弟弟子を思い浮かべながら目の前の愛しい王の未来を見ていた。
彼女の傍らにいるのは、勿論自分ではない。
その悔しさから、多少の悪戯は、許してくださいよ、忍人?
そう、心の中で呟いて・・・。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ