Treasure

□常闇に射す一筋の光条
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「サティ…エイカはいつ戻るんだ?」
「年明けまでには、一度戻ると報告が来ていた」
「…それなら、戻るまでここに滞在させてもらうぞ」
「アシュ、それはならぬ」
「何故だ? 俺が兄上の元にいて、何か不都合でも?」
「お前は所領を得たばかりだろう。そこの統治はどうした」
「それか…。大体の指示は出して、リブに一任した。」
「用意の良いことだな…」


そう言って呆れたような溜め息を吐くナーサティヤに、アシュヴィンはニヤリと片頬を上げてのたまう。

「もう反論は無いよな、サティ?」
「…好きにしろ」


仕方なさげに、とはいえ許可が下りたことに満足そうに笑ったアシュヴィンは、トコトコ付いて来る遠夜とともに、城の客間を占拠しに向かった。



*****



数日後。年末を目前に戻ってきたエイカがナーサティヤへの報告を終えると同時に、アシュヴィンはエイカに詰め寄っていた。


「エイカ、あれを何とかして森へ帰せ」
「おや…?トオヤはお気に召しませんでしたか?」
「お気に召すって、お前な…。俺の元に居ては面倒に巻き込まれるだけだろうが」
「ですが、トオヤはそうは思っていない様ではないですか。そうですね?」


エイカの言葉に、アシュヴィンとエイカが揃って後ろをーー遠夜の方を向くと、土蜘蛛の少年はエイカの言葉を肯定するようににこやかに頷いていて。

(ここに居たい…土蜘蛛の森に、光は届かないから)

「トオヤはまだ幼いですが、その能力は外に出すに充分なものです。
どうかこのままお側に置いて頂けませんか、黒雷様?」


遠夜の様子に棺の向こうでクスリと笑いながらエイカが口にした言葉に、アシュヴィンは未だ渋面を崩さない。


「だが…俺の側は危険だ」
「アシュ、少し頭を冷やせ」
「はぁ!? 何を言ってるんだ?」
「面倒に巻き込むだの危険だの…。
その土蜘蛛の気持ちも、少しは酌んでやれ」
「………」

兄の言葉に黙り込んでしまったアシュヴィンの耳元に、エイカが口元を寄せて小さな声で呟いた。


「黒雷様、あなたもトオヤを手放し難く思っているのでしょう…?」
「お前…何のつもりだ?」

「違いますか? それは失礼いたしました。
ですが…トオヤが黒雷様の元に参じてから、既に二つの季節を跨いでおります。
本当にお嫌でしたら、もっと早くにこちらに来ることも出来たのではないですか?」
「……………」


更に渋面を深めるアシュヴィンに、ナーサティヤもエイカも、どう言ったものかと口を出せずにいると。

少し離れて不安げに様子を窺っていた遠夜が、アシュヴィンの方へと近寄っていき、クイクイとその肩口のマントを引っ張っている。
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