Treasure

□しあわせ日和
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君と逢う度、強くなるこの想い…。

君に触れてみたい…。

その、白く華奢なその手に……。




執務の休憩時間。
いつもの様に中庭を二人で散策をしていた。
夏に近づき萌えるような新緑が陽に煌めく中をその景色を楽しむ様に…。
恋人同士となって早数ヶ月。多忙な二人にとってこの僅かな時間の逢瀬はとても大切で貴重なモノだった。
話す内容と言えば最近あった事や執務時に思った事など様々であり、ほとんどは千尋が話し忍人が聞き手となっていた。
楽しげに話す千尋を優しい眼差しで見る忍人。

こうして千尋の笑顔を見ると心が和み仕事の疲れなど忘れてしまうようだ。
そう僅かに笑みを浮かべる忍人。

しかし、その視線がある一点から離せなくなる。そう、千尋のその手から…。
思わず自分のそれを伸ばしかけ慌てて自制をする。
このままではまずい。
そう思った忍人は仕事が残っていた、とその場を足早に去っていった。



「全く、俺は何を考えているのだ…」
最近、自身の脳裏によぎる思いに頭を抱えたくなる。
千尋に触れてみたいなどそんな不埒な考えは捨てなくては…。
そう、自分に言い聞かせるように心の中で何度となく唱えた。



「はぁっ…」
もう何度目か解らないため息を付いていた。
今は執務をこなさなくてはいけないのだから余計な事は考えてはいけない。そう、思いながら手にした書簡の内容が頭に入ってこない。
そしてまた一つため息が零れた。
「千尋、少し休憩にしましょうか」
執務の補佐をしていた風早がそう言い茶を入れるべく立ち上がった。
「え、でも執務をし始まってまだそんなに経ってないんじゃないの?」
そう疑問を口にすれば、「ですが、我が君。どうやら執務に身が入らないご様子。無理になさっても決して良い事は御座いませんよ」
そう補佐をしてくれていたもう一人…柊がそう諭してきた。
その言葉に素直に従い休む事にした。

「そう言えば忍人とはどうなんだい?休憩時間に頻繁に会ってるようだけど」
「それは私も気になりますね」
二人からされた質問にドキリ、とする。
先ほどから出るため息は正にこれが原因なのだから…。
「おや、どうされたのですか?忍人との間に何か問題でも?」
「悩み事なら俺たちに話してみてくれませんか?」
暖かい二人の言葉が胸にしみる。思わず堪えていた涙が出てきた。
「私、忍人さんに嫌われちゃった」



兵の訓練を終え、執務室で部下や他の部署からの書簡を見ていると扉が叩かれた。
「鍵は開いているから入ってくれてかまわない」書簡から目を離さずに応対すと、よく知る兄弟子の声。
「忍人。少し、失礼するよ」
「風早か…。どうした?」
「忍人にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
真剣な眼差しで見据えられ何か重要な案件であることが解った。
補佐の者を下がらせ二人きりになる。
「それで?聞きたい事というのは何だ?」
改めて聞く。

すると、その前に少し良いですか?そう言われたと同時に思いっきり顔を殴られた。
「風早、何を!」
しかしその言葉には答えずに質問を突きつけた。
「率直に聞きますが、忍人は千尋の事をどう思っているんですか?」
「な、何を突然そんなことを?」
千尋、と名前を聞くだけで胸が高鳴るのにそれを口に出せと言うのか?
「何故、風早にそこまで暴露せねばならない。個人的な領分だろう」
動揺を悟られぬように言い返す。
しかし風早は一歩も引かずになおも詰め寄る。
「そうは行かないんですよ。千尋が泣いていたんですからね」
「千尋が?」
「忍人に嫌われたかもしれない、とね。」
「なっ…。そんな事は無い!俺が千尋を嫌うなど絶対にあり得ない!!」
風早から聞かされた内容にひどく心がざわついた。
「だけど、千尋から聞いた話しだと最近、態度がよそよそしくなった。それに目も合わせてくれない、と」
「そ、それは…」
確かにそんな態度を取っていたかもしれない。
「どう言う事なんだい?何か訳でもあるのかな」
これ以上、この男に隠し事は出来ないだろう。
「千尋の手を触れたくなるからだ!」
「は?手?」
自棄混じりに言ったもののやはり羞恥で顔が熱くなる。風早はと言うと先ほどとは比べものにならないほど間抜けた様子と声で話してきた。
「えぇ…、と。忍人、一応聞くけどもしかして…千尋と手繋いだこと…。じゃあ、口づけは?」
「っ!!いきなり何言い出すんだ!手さえ触れたことが無いのにく、く口づけなんかしたことあるかぁ!!」
風早がとんでも無い事を言い出すのでつい取り乱してしまった。
「だいたい、千尋はこの国の王だ。それに…その事を抜きにしても軽々しく女性の肌に触れるのは失礼だろう」
動揺した勢いのままにそう言葉を発する。
するとクツクツと笑い出す風早。
「何がおかしい」
そう言って睨めば、

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