Treasure

□花霞、花吹雪
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花霞、花吹雪

「もう、桜が散ってしまいましたね…淋しいな」

桃色の花びらが敷き詰められた道を先導するように歩きながら千尋がぽつりと呟く。
緩やかな坂道を登る足取りは、満開の桜を見に来たときに比べるとずっと重いようだ。
その後を追いながら、肩より少し伸びた千尋の髪を見詰めてそっと目を細めた。
一年で伸びた髪はたったそれだけで、しかし季節は移ろい、千尋も少しずつ大人びている。

「ね、忍人さん、来年もまた一緒に見に来てくれますか?」

くるりと振り向いた千尋はどこか不安そうな瞳をしている。
蒼の双眸をひたと見詰め、俺は「ああ」と肯いた。
来年だけでなく、再来年も、また次の年も。
それが俺に与えられた特権であればいいと思う。
しかしいつか君は背の君となる男と結ばれ、俺のことなど心の中から追い出してしまうのだろう。
だからそれを聞きたいのは俺の方だったのだけれど、千尋は嬉しそうに笑うと白磁の肌を仄かに桜色に染めた。

「それなら淋しくなんてないです。私、忍人さんとこうして桜を見るのが一番好き。凄く綺麗に見えるんです」
「誰と見ても同じだろう。寧ろ俺は樹木とは五行が合わないからな、余計に…」
「もう、そうじゃありません!忍人さんは、私じゃないひとと桜を見ても同じに見えるんですか?」

変なことを聞くひとだ。
桜など、特別な気持ちを持って見たことがなければ観察の対象でもなかった。
故に千尋の質問にはどう答えていいか分からず、俺は口を噤むしかない。

「…答えにくい、ですか?」
「そうだな…綺麗だとは思うが、それだけだ。何かと比べることもなければ、特別に素晴らしいと思ったこともない」

幼い頃に同門の友と見たときは、桜より空ばかりを見ていて歯痒い思いをしていた。
早く追いつきたくて、桜ではなくもっと高みを目指していたからだ。
背丈一つ勝てぬまま、友は散り散りになり、何の因果かまた集ったものの相変わらず勝ったとは思えない。
剣の腕では五分かもしれないが、それだけだ。

桜と千尋を見比べて、俺はやはり分からないと首を振った。
そんな俺を見ながら、千尋は伸びた髪を耳に掬い上げるようにしてかけて微笑んだ。

「私は…忍人さんと桜を見ると、凄くきらきらして見えるんですよ」
「なぜだ?誰と見ても風景など変わらないだろう?」
「心が弾んでるから、桜も一層綺麗に見えるんです。恋をするとね、世界が華やぐんです」

こい、という言葉に俺は瞠目して千尋を見た。
千尋は先程より頬の色を濃くして俺を見詰めている。
どくり、と心臓が大きく跳ねた。
世界が、華やぐ。
舞い散る花びらがまるで綺羅星と見紛うばかりに光を弾いている。
桜の薄い桃色が、突然一際濃くなった気がして、俺は言葉を忘れたまま唾を飲み込んだ。




(俺はこの瞬間、君に恋をした)




何となくおしちひSS。
恥ずかしすぎてもうだめだヒー!
でももう桜も終わりの季節になってきましたものね。
記念だ記念と言い聞かせます。
煮るなり焼くなりお好きに…おしちひ好きな皆様へ捧げます。

こんなこっぱずかしい小説書いてないで、宿題片付けろ俺!


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なみだいろ。モバイルのゆずさんから拝領。
将軍の甘さっぷりにニヤニヤが止まらないんですが…。恋に落ちた将軍。
この二人は本当に幸せになってくれ!と願わずにいられません。

ゆずさん、いつもありがとうww

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