Treasure

□策略と言う大作戦!
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『はぁ・・・。』

口から漏れる吐息は彷徨うように零れ、千尋を包む。
まるで、今の彼女を表すように付きまい大気に溶けていく。

伸びた髪を弄びながら指に絡め窓枠から外を眺めれば、そこに千尋の想い人が立っていた。
忍人は千尋に気づく様子も無く、千尋に背を向け、隊に指示を出していた。
そんな背中を見つめながら、千尋はある決意を決めた・・・。





* 策略という大作戦! *





同行を申し出る釆女を断り千尋が向かったのは、普段人も寄りつかぬ古い書庫の最奥に位置する暗い保管庫だった。
いつの頃よりあるのかすら解らないほどの古い書物の中で、唯一存在を露にする存在がそこには常にいたからだ。
薄暗いその部屋を通り抜ければ、天窓から差し込む日差しの中心にその人物は立っていた。

『おや・・・? ようこそいらっしゃいました。我が君。』

その部屋の主ともいえる柊は、無駄な動き一つ無く傅いた。
そして日の当たる窓辺へと千尋を案内し席を指した。
そんな仕草ですら、洗練されていて紳士的だった。


彼ならばきっと・・・。

千尋は心の中でそう呟き、決意を込めて柊を見つめた。

『柊、お願いがあるのよ。』





暗い保管庫を出たのは、日も暮れかけた夕方になっていた。
随分長いこと滞在してしまったと、反省しながらも、釆女にすら何も言わずここに来てしまったことに多少の後悔をしていた。
千尋は過去の経験から、こんな時、彼も自分を探すという事を思い出していたからだ。
案の定・・・。

『陛下!』

書庫を出てすぐに、回廊の一番奥から自分を呼ぶ声に反応し振り返ると、最愛の男が走り寄ってくるのが確認できた。
しかし、今は甘い雰囲気などでは決してない。
叱られるのを覚悟しながらも、千尋はつい癖で俯いてしまった。

『今までどこにいらっしゃったんですか?ご自分のお立場をもう少しご理解ください!』

やはり、紡がれるのは厳しい叱責の嵐で、千尋は何も言えないまま俯くしかなかった。
事実、忍人の言っていることに何も間違いはなかったのだから。

『ごめんなさい、ちょっと・・・。』

言葉を濁す千尋に、忍人は眉間に皺を寄せ千尋の背後にある書庫の扉を睨んだ。

『どちらにおいでだったんですか?』

あえてその問いに答えず、千尋は王としての顔をとった。

『葛城将軍、私は今から部屋へ戻ります。同行願えますか?』

凛とした態度に、忍人は臣下の礼をとるも、千尋の様子に疑問を感じていた。
何を隠している?と。

千尋は、先程柊と話した内容を1つずつ頭の中で確認しながら、斜め前を歩く忍人に気づかれないように歩き始めた。
今は、まだ・・・と。





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