Treasure

□常闇に射す一筋の光条
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トコトコ、トコトコ。
まるで親の後に付いて歩く小さな子どものように自分を追ってくる土蜘蛛の子どもの気配に、アシュヴィンは半歩遅れて付いてくるリブにちらりと視線をやると、わざと軽い溜め息をついた。


「おいリブ、あれは何とかならないのか」
「はぁ…や、何とか、と申されましても。本人に帰る気がなさそうですからねぇ」

一応聞こえないように、とこそこそ小声で交わされる会話に実りはない。

アシュヴィンが毒殺されかけたあの一件の折、彼らが暮らす城に召し上げられた土蜘蛛ーー遠夜。

彼に「用は終わったのだから好きにしろ」と伝えておいたら、気が付いた時には既に、こうして何をするでもなく城の主に付いてくるようになっていた。
そうして経った月日は数ヶ月、既に二つの季節を跨いでいる。

アシュヴィンとしては、暮らしていた森に帰れ、との意味を込めたつもりだったのだが。


「おい、トオヤ。お前、森には帰らないのか?」

再び嘆息して足を止め、振り向いて問いかけたら、遠夜はふわりと微笑って首を横に振る。

(側に居たい……百より多い毒を消して、輝き続ける光…黒雷の側に)
「…ここに居たいようですね、殿下」


遠夜のあまりにも綺麗な表情に、笑うしかない心境のアシュヴィン。
アシュヴィンは頭をガシガシ掻きながら、疲れた表情で遠夜のところへと歩み寄り、己の肩口にも届かない身長の遠夜と視線を合わせるように軽くしゃがんで問うた。


「なぁ、ここにずっと居たって、また何かあったらお前は利用されるだけなんだぞ。それを分かっているのか?」
(……? 黒雷の光は…簡単には消えない。お前の強さがお前を守る。だから消えない、逃げない…俺も、黒雷も)
「…リブ、トオヤが何を言っているか、分かるか?」
「や、申し訳ありません。全く…」
「「…………」」


不思議そうに小首を傾げた遠夜の反応に、アシュヴィンは困惑顔だ。
アシュヴィンとしては、危険な状況にあまり必要以上に他人を巻き込みたくはないのだが。小さな土蜘蛛に、帰る気配は依然ない。

「ナーサティヤ様のところへ、相談に行かれてはいかがですか? トオヤをここに連れてきた、エイカが居るはずですし」
「はぁ…それしかない、か」

行くぞ、と声をかければ、遠夜は嬉しそうな表情でトコトコ駆け寄ってきて。
アシュヴィンはリブに降参の姿勢をとって見せた。



*****



「…いない、だと?」
「ああ…エイカは今、中つ国に行っている」

ナーサティヤの居城に来たアシュヴィンは、兄の元への訪問が徒労に終わった事実に、盛大に溜め息を吐きつつがくりと地に膝を付いた。
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