小説

□二代目拍手文
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冷え込んだ黎明にくしゃみが一つ。くしゃみの主が布団の中でもぞもぞと動けばちょこっとちらつく濃紺の髪。あまりの寒さに先程まで見ていた夢はどこへやら、今では腰と喉の痛みと一糸纏わぬその姿が昨夜の情事を思い出させる。凍てつく空気にぶるっと震える自分と打って変わって規則正しい呼吸を繰り返し夢見心地良さそうな相手が些か憎くなり、冷え切った足先を相手の脹ら脛に、指先を首もとへぴったりとくっつける。冷え切った体の末端は皮膚越しから相手の熱を吸収し、だんだんと温もりを得始め、その代わりに熱を奪われた相手の体の部位は温かさが半減した。すると未だ生温い指先は新しい熱を求めて首筋を這っていく。ぴたり、ふと止まった人差し指が脈を捉える。
とくん、とくん、とくん、心地良い命のリズム打ちに突如愛しさがこみ上げてくる。この音はあと何回は響くのだろうか、オレはあと何回この体温を感じることができるのだろうか、アキラが「咢」とオレの名前を呼ぶ声が聞けるのはあと何回だろうか…。逃れようのない有限の時が愛しさを不安感に変えてしまった。一切乱れない頸動脈からそっと離れた細い指先は、愛しい人の頬へと向かった。
今まで何も感じていなかった頬に違和感を感じた本人はゆっくりと夢から覚め、目を軽く擦りながら空いている手で頬を探った。手と手が触れ合うと次には目と目が合った。

「…どした?」

「別に」

本当は相手に触れられ目が合ったことにこの上ない安堵を覚えていた咢だが、天の邪鬼な彼はいかんせん素直に自分の気持ちを伝えることが出来ないのだ。しかし、長年の付き合いを経ているアキラは素っ気ない言葉をそのままの意味で解釈したりはしない。頬にある咢の白い手を握ってから、小さく笑みを浮かべる。

「ほっぺたなんて撫でて、オレが恋しくなった?」

「っ…ファック!んなわけねーだろ!」

「じゃあなんで触ってたの?」

「っ……」

反論する言葉が思い浮かばなくなれば口元を歪めさせてからアキラの肩にがぶりと噛み付く。思わず眉を顰めるアキラだが、すぐに苦笑すると可愛らしく毛先を擡げる寝癖を正すように優しい手つきで撫でてやる。髪を撫でられるとゆっくりとアキラを琥珀色の瞳で見上げる。その瞳が捉えたアキラはこの上なく優しく微笑んでいて、なんだか噛み付いていることに申し訳なく思った咢は噛み付くのをやめ、薄らついた歯型を申し訳なさそうに舌先を這わせた。その姿を見て思わず小さく笑うと、今度はアキラが咢の頬を撫でる。心地良かったのか、咢はその掌に頬を摺り寄せ甘えてきた。
しばらくしてから再び肌寒さを感じた咢は目の前にある胸板にぴたりとひっついた。頬を寄せればここからも聞こえてくる命のリズム。アキラが咢を強く抱き締めると更にその音は大きく聞こえてきた。

「……アキラ」

「ん?」

「オレより先に死んだら殺す」

「死んだオレをどうやって殺すんだよ」

「オレがオレを殺すんだよ」

「何バカなこと言ってんだ、オレが死んだってちゃんと生きろ」

「やだ、無理」

もう一度説得の言葉を言ってやろうと思ったが、言うのを止めたのは胸が濡れていると感じたから。困ったように笑ったアキラは相手の名前を呼んでみるが、首を振るだけで一向にこちらを見ようとはしない。ひくひくとしゃくりあげる度に震える華奢な背中を撫でる。

「咢、大丈夫。意地でも咢よりも長く生きてみせるから」

「…ほんとか?」

「ほんとほんと。第一オレが先に逝ったら寂しがりやの咢を誰が面倒みるんだよ。心配で死んでも死にきれないって」

「うん…」

ようやく安心した咢は涙目のままアキラを見上げにっこりと微笑む。その笑顔はあまりにも無邪気で可愛かった。つい咢に見惚れてしまったアキラがふと我に返ったときには首に腕を回され、ゆっくりと這い上がった咢はアキラと同じ高さで目が合った。



咢がアキラにそっと口付けた時には、朝日がカーテンの隙間から入り込み二人を暖かく照らしていた。




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宇アギ大好きすぎて彼らの絡みをいかがわしい目線でしか見られん。
trick:70の最後に出てくる写メを見て発狂したのはあたしだけじゃなかろう。

お粗末様でした。

2011.04.03.
姫様


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