小説

□マジカルセーラー
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桜がまだ咲き乱れている新学期、学年が一つ上がっても実質中身はほとんど成長していないオレたちは昼休みにババ抜きに熱中していた。参加メンバーはオレ、美鞍数馬とイッキ、それから無理矢理起こされて非常に機嫌が悪いオレの恋人、咢。オレは睡眠妨害された咢の恐ろしさを十二分に理解していたから起こさないほうがいいとあれほど言ったのに、咢と同居していて危機管理する神経がイカれてしまったのかオレの忠告をフル無視してイッキは勇ましくも起こしてしまった。
二人の丁々発止の激戦をはたからそっと見守っていたが、流石は同居人イッキ。勝利品としてハーゲン●ッツを提供すると言い出した途端咢のイライラメーターは嘘のように降下していきババ抜きへの参戦に同意した。その同意を確認してから不適な笑みを浮かべたイッキは「ただし」と追加ルールを突き出してきた。

「びりっけつは午後からの授業を女子の制服で受けること!おーけー?」

てっきり咢はそれに反論するかと思いきや、アイスに目が眩んでしまったせいか「望むところだ」とその追加ルールを受諾してしまった。女子の制服を着た咢を見たいのはやまやまだけど、きっと負けていざ制服着用の儀式をしようものなら夜叉般若のような顔でぶち切れるだろう。咢が勝ってほしい気持ち半分、負けて欲しい気持ち半分。

そして運命の結果は……なんと咢の三連敗。青ざめる咢。A.Tを履いてない咢を力ずくで抱きかかえたイッキは誰もいない保健室へ咢と女子の制服を放り込み五分以内に着替えろと言い放ち、その上「逃げたら牙の王から負け犬に格下げな!」と哀れな咢の抗議を制してしまうとトイレへと行ってしまった。イッキってこんなに隙のない奴だっけ?
五分後、保健室から咢が出てくることもなければイッキがトイレから帰ってくる様子もない。保健室の前でぼーっと立っているのもなんだか空しいから、保健室のドアを軽くノックしてから小さくドアを開いて中を覗いた。

「咢、暇だから入っていい?」

「ファック…!入んな!バカ!」

咢の制止の声とオレがドアを全開にするのはほぼ同時で、目の前に情けなく立ち尽くす咢を見た瞬間保健室に足を踏み入れ勢いよくドアを閉めた。なんたる犯罪的可愛さ、こんなの他の奴らに見せる訳にはいかない、と脳が勝手に判断したのかして無意識に鍵をかけていた。セーラー服の上から着ている少し大きめのキャメル色のカーディガンの裾からちょこっと見える紺色のスカートと指先、白くて細い足を纏う黒のハイソックスが小柄な咢にはなんとも絶妙で、とても同じ男とは思えなかった。元より咢に特別な感情があったオレには眩しすぎるオプションだった。
しばらく無言で魅入ってしまっていたオレを訝しげな表情で覗き込んだ咢と目が合って初めて我に返った。

「可愛いじゃん…」

「はあ?頭おかしいんじゃねーの?」

見た目の可愛さとは正反対の口の悪さも最早痘痕も笑窪ってやつで、そんなものオレが咢に抱いている感情と今の咢の無敵フォルムさえあれば口や態度の悪さなんて中和されるどころか、むしろ前者が大幅に余るくらいだ。それにこの悪態が照れ隠しってことくらいオレにだってわかる。
相手が一応恋人のオレだからか、もうとっくにこの格好に対して開き直ってしまったのかは定かではないけど、いつもの調子に戻った咢は大きく伸びをし時計を一瞥してからベッドへと向かった。

「咢?」

「あのファッキンバカガラスが、誰がこんな格好で授業受けるかってんだ。午後の授業はボイコットだ…」

「あ、そう…。じゃあオレもサボろ」

ラッキー、こんなことってあるかよ!こんなの普段じゃ絶対に拝めない無敵艦隊状態の可愛さの咢とよもやこんな場所で二人きりになれるなんて。
ベッドに横になった咢の隣に腰かけると、意外にもすんなりと場所を提供してくれた。しかし、次がれた言葉に思わず目が点になった。


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