小説

□留守番
2ページ/2ページ


それから何時間経ったのだろうか。8時には帰ると言っていた家主が10時になっても帰って来ない。特にすることもない咢はソファに座ってぼーっと窓の外を眺める。吸い込まれそうな真っ暗闇の空には宝石のように輝く星が散りばめられている。そして風によって流れていく雲の陰から満月が姿を現した。その満月を見ては、この前の満月を眺めたのはアキラの胸の中だったということを思い出し、今日は一人で眺めているということを実感するとなんだか突然切なくなり、近くにあったクッションに顔を埋める。
ほのかに香った、愛しい人のあの匂いに余計切なくなった。あの優しい笑顔を無意識に思い出してしまう。本当だったら今は隣にいるはずなのに、と咢は唇を尖らせクッションに顔を埋めたままソファにゴロリと横になった。胸元で光るクロスをぎゅっと握ると鼻がつんとした。

「ファッキンバカが…。あーあ、ねみぃ…」

突如襲ってきた強烈な睡魔に欠伸を一つ。重たくなる瞼を素直にシャットダウン。
心地良い浮遊感に勝てるはずもなく、咢はそのまま眠りに落ちてしまった。









「ただいまー、遅くなってごめ…あれ?」

部屋にいるはずであろう相手に喋りかけるも、返ってくるのは外から聞こえてくるバイクのエンジン音やら電車が走り去る音だけ。何かあったのかといささか心配になりながら、携帯していた銃に触れつつ部屋の中へと足を進めていく。そしてソファに近づいた時、僅かに聞き慣れた寝息が聞こえてきた。苦笑しながら荷物を置き、なるべく足音を立てないようにすやすやと眠る相手に近づく。

「ただいま、遅くなってごめんな?」

小さな声でそう囁くと紺色の髪を撫で、自分が着ていたジャケットを相手にかぶせてやった。そのジャケットにきゅっとくるまる様はまるで猫のようだ。その場に座り、暫く幼気な寝顔を眺める。

「これが牙の王か…」

その名に似つかわしくない程可愛らしい顔に思わず頬が緩む。そして、こんな幼い人間がしっかりと自分を支えているという事実には頭が上がらない。
時折ピクリと動く手をそっと握って柔らかな頬に口付けると、咢がよく好んで使っていたブドワールが香ってきた。共に活動していた時から変わることの無い相手に安堵の笑みを零す。

「あー…眠くなって来た…」

漸次襲ってくる睡魔に欠伸を一つ。
咢に顔を近づけ、固い床の上に座ったままでソファにもたれて寝てしまった。







「っ…アキラ…?」

手に僅かな温もりを感じて眼を覚ました咢の目の前には、ずっと待っていた相手がすやすやと寝ている。何故自分が手を握っているのか、何故自分が相手のジャケットにくるまっているのか、まだ覚醒し切っていない頭では気にすることも億劫であった。

「…」

寝ぼけ眼で床に座って寝ている相手を暫く見つめると、やがて繋いでいた手をそっと離してジャケットを羽織ったままソファから降りてアキラの隣に座りピタリとひっついた。先ほどのほのかな香りとは違うはっきりとした香りに嬉しそうに笑顔を浮かべて相手の大きな手を握り、ずっと待ち望んでいた温もりを感じながら眠りについた。






次の休みこそは一日中オレのそばから離れないで欲しい



------------

せやから、あたしは何を言いたかったんや。
とにもかくにもデレな咢を書いてみたかっただけです。
のんびりほのぼのした話を頑張って書いてみましたがこのざまでした乙。

慣れないことをするもんじゃないです。
お粗末様でした。

2011.04.07.
姫様


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ