小説

□Paranormal
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※裏を含みますのでご注意下さいませ。





「…何で泣いてるんだよ」

「っ……ファック、知るか」

嘘、知ってる。でもお前にだけは絶対に教えたくない。だって優しいお前のことだ、絶対にオレよりも泣くに決まっているし、第一それがきっかけでぎこちない接し方をされたら胸糞悪い。だからアキラは、知らなくていい。
オレはそろそろ消える。たぶん、いや、十中八九、消える。
海人の元を離れて新しい人間と出会い亜紀人はオレ以外に支えてもらえる人間を得た。今までオレだけを頼って生きてきた亜紀人が、たかだか数ヶ月しか一緒にいない人間にすっかり懐き信頼しきっているのはなんだか気に入らなかったが、亜紀人に友達が出来たのは素直に嬉しかった。それに、例え寂しさを感じたとしても、オレにはアキラという恋仲の人間がいる。その手前、亜紀人にだけ人間関係を干渉するなんてそんな理不尽なことはできなし、する気も毛頭ない。ただ、新しく出来た友達と心底楽しそうに笑う亜紀人が、少しだけ遠く感じたのは事実。もしかして、もうオレは必要ないんじゃないか、なんてことが頭をよぎったりもした。
それでもオレには亜紀人をA.Tで守るという存在意義がある。亜紀人の身に危険が迫ればオレの牙で守る。ファッキンバカガラスとずっと一緒にいたいからA.Tを続けてくれと言われれば勿論続ける。もしもアキラと別れろと言われたら、別れる。勿論、アキラのことは愛している。ただ、亜紀人は特別だ。好きとか愛してるとか、そうじゃなくって、もっと深い何かで繋がっている。切っても切れない繋がりがある。だってオレは亜紀人で亜紀人はオレなんだから。亜紀人が全て。つまり、どんなにアキラを愛していようと亜紀人が守れなくなった時点でオレの存在意義は成立しない。

走る途中、飛ぶ途中、戦闘の途中、足がピクリとも動かなくなる。コイツと闘ってから、何故かオレの足は言うことを聞いてくれない。アキラと互角にやりあうには多少の無茶でもしないと勝ち目はなかった。その無茶が祟ったのか、蓄積された疲労が災いしたのか、いずれにしろベヒーモス戦以降この足は使い物にならない。
そうなれば、オレの生きる意味なんてない。日に日に亜紀人との距離が遠くなっていく、亜紀人のキャパシティには新しい仲間という素材が湯水のように流れ込んで来るのに、役立たずなオレのままじゃオレのテリトリーがどんどん縮小されていく。そして悟った。


…嗚呼、オレ消えるんだ。



「嘘つきは閻魔様に舌引っこ抜かれるぞ」

「はっ!地の下でしか威張り散らせねぇ奴なんざ…オレが道にしてやるよ」

アキラの唇がオレの目尻に触れて、無様に溜まった涙をそっと吸い取った。このままコイツといると虚勢も張れない。別に嘘を吐く気はさらさらない、ただコイツにオレが消えるなんてことは絶対に言えない。言ったらオレは急に消えることが怖くなりそうな気がする。いよいよオレが消えるまでの秒読みがかかりそうで、怖い。アキラに二度と会えなくなるのが、怖い。アキラにいつか忘れ去られるのが、怖い。

「…言いたくないのか?」

「………言えねぇ」

「口止めされてて?」

「…ううん」

「怖くて?」

十分な空白を作ってから小さく頷いた。目は、合わせられない。目を見た瞬間オレは間違いなく、また泣く。オレの反応を見たアキラは小さく笑ってから一時停止していた行為を再開した。十分に濡れた指をオレの中へとゆっくりと埋め指先を内壁へ擦り付ける。じりじりと湧き上がる熱に耐え切れず、オレは濡れた声をあげはじめた。


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