小説

□abyss
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※ヤンデレ咢です。多少の裏を含みますので予めご了承下さいませ。



日曜日の夕方、特に理由も無くビルの屋上からぼんやりと夕陽を眺めていた。沈んでく、夕陽が沈んでいく。沈んでいく、オレの心も沈んでいく。夕陽は沈んでも、また明日には鮮やかに街を明るく照らす。けどオレの心は沈んだまま帰って来ない、どこまでもどこまでも等速直線運動を続けて底が見えないどこかへ沈んでいく。なあ、オレどこまで落ちると思う?もしかしたらリミット、ないのかも。

最近どうしたことか、オレはオレを痛めつけるのが大好きみたいだ。こうして気分が沈んでいる途中に追い討ちをかける様にあれやこれやと考えずにはいられない。そして思考を続けて導き出した答えは必ず真っ黒でくすんでいる。その真っ黒でくすんだ答えは得体の知れない塊になってオレの胸にこびりつく。そうするとオレはいてもたってもいられなくなってその場を離れてトイレに駆け込み、その黒い塊を追い出そうと人差し指を喉の奥目掛けて突っ込み吐き出そうとする。でも出てくるのは胃液とか消化されてぐちゃぐちゃになってしまった何かで、決して黒い塊はオレの中から出て行ってはくれない。こんなことをほぼ毎日続けていて、気が付けばオレの胸は黒い塊でいっぱいになってしまった。今はもう何にあの感情を抱いて泣いていたのか、何にこの感情を抱いて呼吸困難に陥ったのか、そんなこともわからなくなってしまった。
今もそうだ、夕陽を見ていたらなんだか急にメランコリックになって近くのコンビニのトイレに駆け込んだ。無論、黒い塊は出てこない。トイレから出て汚れた口だけ軽く濯ぎ鏡に映る自分を見る。生きている感じがしない。オレという器がぼーっと突っ立てるみたいだ。

コンビニから出た時には日が沈み、オレの胸の中みたいに真っ暗になっていた。目の前をやたら密着して通り過ぎていったカップルを一瞥しては、おもむろにポケットから携帯電話を取り出し電話帳のアキラという文字を探す。あのカップルを見て思った、寂しい。電話をかけるかどうしようか迷ったものの、気が付いたときには通話ボタンを押してアキラへと発信していた。コール音が二回鳴るとアキラの「もしもし」という声が聞こえて、たったそれだけでなんだか目頭が熱くなってきた。重症。

「アキラ、今…大丈夫か?」

『うん、大丈夫だけど。…どうした?』

「あ…いや、別に…」

電話越しに聞こえる声。寂しいから電話をかけたはずなのになんだか余計に寂しくなった。耳の近くからアキラの声が聞こえるのに、隣にはアキラがいない。オレはいつからこんなに弱くなったのだろう?べヒーモス戦以降、アキラと頻繁に逢うようになってから、オレはアキラと逢えない日には必ず涙を流してしまうようになった。言うまでも無いが、オレがあれやこれやと考えてパニックを起こす要因のほぼ全てがアキラに関することだ。嗚呼ほら、また涙が出てきた。

『寂しくなった?』

「…ファック!んな訳ねぇじゃん…」

自分が泣いているということを忘れて強がりを言ったが、涙声のそれは何の虚勢にもならなかった。素直に逢いたいって言えばいいのに、この口は、この胸は、この頭は、そうは簡単にコントロールできないのだ。

「アキラ、今何してる?」

『この前咢が忘れたゲームやってる』

「へぇ…本当に?」

『うん、なんで?』

「…別に」

もしかしたらオレと逢っていない間に、また他の女のとこに行っているんじゃないか、そう思った。本当はそんなこと思いたくもないけど、一度そう思い込むとそれが真実としか思えない。結果ひねくれたことを問いかけてしまった。アキラが言っていることは本当だ、小さくゲームのバックサウンドが聞こえてくる。ただ、こうなってしまったオレは疑わずにはいられない。
いつもそうだ。アキラは今誰のことを思って生きているのだろう。気にしだすときりがない、ならメールをしてみよう。でもメールの返事が遅いと息苦しくなる。苦しい。苦しい苦しい。そうしてアイツの香水が染み付いたオレのパーカーをいつまでも鼻に押し当てている。

ああ、そういえば、オレってアキラの何?頻繁に逢うようになって昔のようにセックスなんかも当然しているわけだけど、付き合ってなんかないし。ということはオレ達、世に言うセフレってやつか。つまり、オレと逢ってない間にアキラが女と電話しようがデートしようがセックスしようがオレには関係のないこと。
なんだろう、やっぱりこの中途半端な関係がいけないのか?逢うやいなや恋人同士のようにソファに密着して座ってたくさんのキスをもらったりあげたり。一緒に風呂に入って互いの背中を流したり。暖かいココアを飲みながら星の数を数えたり。そして最終的にはお決まりでオレがアイツに抱かれるんだ。オレが女役でも文句はない。認めたくないけど、オレはそれで幸せだから。
抱かれる度に気づかされる、“オレはアキラが好きだ”ってことを。ただ天邪鬼なオレがそんなことを本人に素直に告げられる筈もなく、友達以上恋人未満な関係は現在進行形で続いている。

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