小説

□Lightning
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「咢、大丈夫か?」

いささか心配になったオレは暗闇の中咢がいたであろう位置まで歩み寄り、ゆっくりと手を伸ばし偶然一発で探り当てた相手の腕をそっと握るとびくっと震えられた。

「あーぎーと、どうした?」

華奢な腕をぶらぶらと揺らすと、オレの胸にぽんと何かが当たり熱が伝わってくる。暗闇だからわからなかったけど、規則正しくTシャツを揺らす吐息で咢がオレの胸板に額をくっつけているのだとわかった。思わず頬を緩ませながら咢を抱き締めようと掴んでいた腕を離すと、縋るようにオレにぎゅっと抱きついた。どうやらあまりに突然の停電に相当驚いたらしい。密着したことによって伝わってくる咢の体の震えを落ち着かせようと、優しく抱き締め髪を撫でた。可愛い奴め。

「咢が怒るから雷落ちたじゃん」

「………ファック、うっせぇ」

「…まだ怒ってるのか?じゃあ離すよ」

あまりに天邪鬼な咢には意地悪を執行することにした。咢から手を離しては無理矢理オレから引き剥がすと、慌てた咢は勢いをつけてオレに抱きついてきたものだからオレはバランスを崩し咢を支えたまま床へと倒れこんだ。衝撃音の後にしばらく続く沈黙。その沈黙の中オレの上で緩慢に身じろぐ咢に手を伸ばした瞬間オレの唇に何か柔らかいものが触れた。不意打ちだったからそれが咢の唇だとわかるまでに少し時間がかかった。

「…そばにいろよ、怖いんだよ」

小さな声でそう呟くと、いつもよりも弱弱しい咢はオレの肩に顔を埋めて抱きついてきた。いやいや、この温度差はあまりにも卑怯だろ。さっきまで爪を立てていた猫が急に擦り寄ってくるとか、もうどう考えても確信犯としか思えないと抗議したいところだが、いかんせん咢は天然だからこんなことをしょっちゅう素でやってのける。その度オレは、いとも簡単に咢の天然に乗せられてしまい、爪で引っかかれていたことなんてどうでもよくなってしまうのだ。惚れた者の弱みとは正にこの事。

「ごめんごめん。…もう怖くないだろ?」

咢に腕を回して抱き締めると、オレの肩で小さく無言で頷いた。そんな愛らしい態度をとる相手の髪に口付けると、ようやく電気の供給が復活し部屋に明かりが生まれた。

「ほら、電気ついたぞ」

オレが咢の背中を軽く叩き起き上がるよう促すとオレの肩に頬ずりして抱きつく力を強めた。

「このままがいい」

本当に、この恋人はどこまでオレを振り回したら気が済むのだろうか。未だに鳴り響く雷は少々耳障りだけど、それよりも大きく聞こえてくる相手の呼吸音に笑みを浮かべながら今日の晩御飯は何にするかをのんびり考えることにした。

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そして晩飯のメニューをアギトにしてしまえばいい。
お粗末様でした。

2011.03.29
姫様


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