novel

□髪結い
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朝日が眩しくて目が覚めた。ぼんやりとした視界とまだ覚醒しない脳内のまま、とりあえず髪をぐしゃぐしゃと掻いてから欠伸をした。不意にいつも隣で寝ているはずの姿がないことに気が付く。欠伸から自然と零れ落ちた涙を手の甲で拭いながら頭だけ動かして桃色の髪を捜す。神威が俺より早起きをするとは、珍しいこともあるものだ。

ことり。部屋の片隅にある鏡面台(俺が普段包帯を巻く際に使っている)から音がする。そちらへ視線を向ければ、毛布を羽織ながら櫛で長く艶やかな髪を梳く神威の姿があった。どうやら俺が目覚めたことに気が付いていないらしい。俺はしばらく神威を眺めることにした。
丁寧に長い髪を梳かすと、櫛を鏡面台に置き、髪を三つの束に分ける。そこから手馴れた手つきで綺麗に髪を編みこんでいき、根元を編むと髪を左肩のほうへ持っていき器用に編んでいく。考えてみれば、毎日当たり前のように揺らしているアイツの三つ編みだが、それを結っている姿を終始見ることになるのはこれが初めてかもしれない。アイツがいつも髪を結っているとき、俺は煙管片手に窓から景色を眺めていることが多い。アイツがさりげなく喋りながら身支度を済ましちまうもんだから、俺もその流れで会話をして終わってしまう。

へぇ、アイツはいつもあんな風にして髪を結っていたのか。節目がちな横顔と白い肌で長い髪を結う様はまるで女みたいだ。餓鬼臭ェアイツにもあんな色っぽい一面があるとは、付き合いが長くなればなるほど味が出てくる奴だ。神威って奴ァつくづくおもしろい。
未だ身動き一つせず布団で横になり神威を眺めていると、神威が羽織っていた臙脂色の毛布が、左肩をするりと滑り落ちていった。神威は滑り落ちた毛布を一瞥するも、構わず髪を結っていく。女も卒倒するであろう陶器のように滑らかな白い肌を大いに見せながら髪を結う神威はひどく妖艶だ。しかし、当の本人はそんな自分の容姿に自覚がないため、どんどんと髪を結い進めていき、指一本分の長さを結わずに残し紐で括った。長い三つ編みを背中へと振り払う仕草をした神威と漸く視線が合った。


「……あり?晋助、起きてたの?」

「おう…、テメェ風邪引くぞ」

俺が肌蹴た左肩を指差し指摘すると、「あぁ」と軽い返事をしてから毛布を羽織り直し俺の元へと戻ってきて、胡坐をかいて座った。俺は布団に包まったまま神威の太股に頭を置く。毛布越しに伝わる神威の熱と髪を撫でてくる柔らかい指先が心地いい。


「あはは、晋助がひっつき虫のおかげで暖かいや」

「テメェに風邪引かれたら困るからな」

「そりゃそうだ、晋助は俺とセックスするの大好きだもんネ?」

「あんまり大人をからかうなよ餓鬼…」


俺は神威の柔らかい頬を指先で摘んでから引っ張って放した。不服そうな表情をしながら自分の頬を擦った神威だが、やがて小さく笑うと俺の両頬を掌で包み込んでから啄ばむような口付けをしてきた。その餓鬼が甘えるような口付けと、先ほどの髪結いの時の色めいた姿との差が激しくて、俺は思わず笑ってしまった。
きょとんとする神威の頭を数回撫でて誤魔化すと、背中へと垂れる長い三つ編みの先を掴んで揺らす。

「意外と器用なんだなァ、お前」

「器用って言うか…まぁ、昔からずっとやってることだから」

小さく笑みを浮かべる神威からは、俺の知らない過去がふんわり香ってきたような気がした。そうか、コイツの髪を結う姿には色っぽさだの艶っぽさだのもあるが、暖かく柔らかい懐古的な雰囲気が漂う。それが俺の目にはとても優しい光景に映った。
寝癖のついて毛先を擡げる俺の髪を突っついて遊ぶ神威の白い手を握ると、軽く手の甲に口付けた。

「…これからはテメェの身支度する様を終始一貫見ておいてやらァ」

「えー、なんか緊張するからやめてヨ」

「五月蝿ェ、黙ってろ…」


俺は神威の後頭部を掴むと顔を近づけさせ深い口付けをした。
神威の口内は甘くて餓鬼臭ェが、その独特の味と、腰を屈めて垂れ下がってきた三つ編みの毛先が俺の頬を擽る感触にこの上なく癒された。


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なんだかんだで神威にベタ惚れしている高杉さんってすごくいいと思うのはあたしだけでしょうか?

お粗末さまでした。


2011.11.22.
姫様



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