書斎 〜参〜
□エスカペイドE
2ページ/10ページ
「お前は厚着をしていたから、向こうは、余計な出血を抑えられていたから致命傷に至らなかったんだ。運が良かったな…」
「そうですか」
「しかしだな…不幸なことに」
先輩は更に言った。
「“リーマス・ルーピン”という人間を入院させることはできなかった。ここにお前の存在は無い」
「……?」
「さぁ、見てみろ。どういうことになってしまったのか」
突き出されたのは1枚の新聞。
その一面を飾る記事に、ボクの目は吸い寄せられた。
「…『社長令嬢殺害未遂』だって…!?犯人を全力で捜査中…逃走……」
その文章の中に、ボクの名はない。
「これ、どういう事でしょうか」
「つまりルーピン、お前が犯人扱いされているんじゃないか?怪我人が行方不明になってるんじゃなく、犯人が消えたと言いたいんだろう」
「………」
「『貴様が何処へ行こうと必ず捜し出し、娘の仇を取ってやる。今後一切、平穏などないぞ』、と脅しを掛けてるつもりなんだ、あのオッサンは」
その声が耳元に聞こえた気がして、身体をブルリと震わせる。