秘要書斎
□Please be...
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目に映るのは、遠い日の思い出と寸分違わぬ彼。
「…懐かしいですね」
「うん。だろうな」
「記憶というのは美化されるものですが…貴方に関しては違っていたらしい…」
「うるせぇ、恥ずかしい台詞吐くな」
あぁ、そうだ。
この照れたような苦笑、これが見たくて堪らなかったのだ。
頬に触れようと手を伸ばしてみると、気づいたジョンが自ら顔を寄せてくれた。
「あ…触れました」
「当然だろ?俺はここに居るんだから」
「それもそうですが…」
やはり、不思議なものは不思議である。
滑らかな皮膚の感触は、あの頃との歳月の隔たりを忘れさせてくれた。
だが、ふとした瞬間に目に映る私の手が、その夢想を打ち砕く。
力無く肌を撫でる手には、もう随分と皺が出来てしまった。
それは何も手の平だけの話ではない。
顔も脚も身体の内側も、等しく年月が蝕んでいた。
彼の目に映る私は、とっくにあの頃と懸け離れているはず。
「…私だけが、年をとってしまいましたねぇ」
「そうかー?」
「だって見て下さい…手も顔も皺だらけになって…。貴方の記憶とは、似ても似つかない姿でしょうに…」
「そんなことないさ、昔のまんまだ」
「そうですか…?」
「うん。全然、お前は変わらないよ」
ジョンは真顔になった。
全てを見透かし受け止めるような、妙に老成した表情だ。