秘要書斎

□シオンの丘
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「軽蔑しましたか?」

「いいえ」

「本当に?」

「本当です!」



その真っ直ぐな発言が好ましいのか、彼の表情が和らぐ。

椅子に腰掛け、机の写真立ての縁を優しく撫でた。



「私はですね、幾度もジョンを屋敷に招こうと思っていたんです。でも、その度に躊躇っていました。
黒の一族という組織に、私と親しいというだけで組み込まれて欲しくなかったからです。
身勝手ですが、ジョンにだけは汚い世界の事など知って欲しくなかった、永久に縁遠い存在でいて欲しかった。
馬鹿ですねぇ、私と接触した瞬間に、渦中に巻き込んでしまっていたというのに」

「それは、ミルザムさんの所為じゃ――」

「今なら違うと分かります。あの時私が声をかけなくても、遅かれ早かれ出会うことになっていたでしょうから。
しかし、ならば何故私たちは知り合わねばならなかったのか。
彼は最期まで私を『友人』と呼んでくれましたが、本心では後悔していたのではないかと思ってしまうんです。出会わなければ死なずに済んだのではないか、と……」



リーマスは答えない。

ミルザムが求めているのは、ジョンの口から語られる本音である。

それはけして手に入らない慰めだった。






「私は、貴方を招くことで罪滅ぼしに代えたいとは思っていません。
貴方は誰の代替でもないですし、ジョンも他人と置き換えられる存在ではありませんから」

「じゃあ……何故ボクをここへ招いて下さったんですか?」

「……貴方にね、会ってみたかったんです。
シリウスが選んだ相手を、ジョンが希望を託した相手を、私たちが未来を委ねる相手を、この目で見たかった。こんなに早く叶って、本当に良かったと思います」

「ボクに、ですか?」



意外にも思える理由にリーマスは尋ね返したが、ミルザムは躊躇わず頷く。

頷いて、ふと困ったような表情になった。



「駄目ですねぇ、私の言い分はどうも自分勝手です。
本当ならほとぼりが冷めるまで、せめてあと2年は待つべきでしたね」

「……………」

「…それから、貴方がどのような話をどこまで耳にしたかは分かりませんが、憎むなら私だけを憎んで下さい。全ての元凶は私ですし、出来るなら最後になりたいのです。
そして、……シリウスを宜しくお願いします」
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