秘要書斎
□シオンの丘
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ミルザムの書斎は、ごく限られた場合しか他人の入室を許可しない。
重要な仕事場であり、プライベートルームであるからだ。
机を埋め尽くす書類と、壁を並べられた本棚に、リーマスは気圧された素振りを見せた。
「膨大な量でしょう?」
「はい」
ミルザムはその中の一冊を手に取り、愛おしそうに背表紙を撫でる。
伝説上の生き物ばかりを集めた図鑑だ。
「これはね、大切な友人から譲ってもらった本なんですよ。卒業記念と称して、こんな重い物を託していったんです」
「そうなんですか」
「彼と過ごすのは楽しかった。毎日が輝いていて、刺激に満ちていて、発見ばかりで、穏やかで騒々しい、幸せな10年間でした」
「良いご友人だったんですね」
「もちろん!たぶん、何もなければ、私たちは永遠に友人でした」
「……?何も?」
「私が黒の一族で、彼が人狼でなければ」
リーマスが、喉の奥で言葉を呑んだ。
あまりにも残酷な言葉に聞こえたからだ。
「そ、れで…?」
「分家の探索能力は私の隠蔽に勝りました。彼に再会するまで要した時間は、別れてたった数年です」
「でも、再会出来たんですね」
「えぇ、もちろん」
「じゃあその人は――」
「この手で命を奪いました」
僅かな希望を抱いていたリーマスは、打ちひしがれた表情をする。
「そんな……あんまりじゃないですか…!」
「仕方ありません、それが私たちの業ですから」
「だからって……酷い…」
声を詰まらせたリーマスの瞳から、ポロポロと涙があふれてきた。
「泣かないで下さい、貴方が涙を流すことではないのです」
「無理です!」
「いいえ、貴方がすべきことは、私に対して怒りをぶつけることですよ」
「何でですか!」
それには答えず、ミルザムは己の腕に視線を落とした。