秘要書斎
□産声 ―Voice―
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シリウス。
あなたはもう覚えていませんが、産まれてきたあなたは産声をあげていませんでした。
あなたはあの日、確かにルーピンの子供に出会っているのです。
いつもそうだ。
見聞きしたものを無意識に吸収し、必死に自分の正義を訴えかける。
産まれたときから、声も立てずに泣いていた。
成長してからは、声高に己の意見を主張した。
どんなときも、私が言うまでもなく自分の正義を貫いていた。
あなたの存在が、すべてを壊す危険性を孕んでいるとしたら…
「産まれてこなければ、よかったですか…?」
危険だから芽を摘む。
それこそが黒の一族の考え方だ。
今一度、心得を説いたら、間に合うかもしれない。
「もちろん、そんなことはしませんけどね」
言うだけ無駄だ。
シリウスは、きっと己の正義を曲げない。
私の思いに感付いているから、決して曲げない。
彼はそのために産まれてきたのだ。
シリウスの心の泣き声は、耳を塞いでも塞いでも私をさいなんだ。
どれだけ拒絶しようとも、彼の声は私の願いを思い出させてくれるから。
<Fin>