秘要書斎
□産声 ―Voice―
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そこまで言うと、恥ずかしげにむくれた。
「うっさいなぁ。それが何だよ」
「人狼同士が気付かず恋に落ち、子を生むことは実際にあります。ルーピン夫妻は子供がいました」
よく喋る名前を聞いて、シリウスの目が大きく見開かれる。
「父さんの銀の手を奪った人狼に?」
「子供用の食器がありましたから間違いありません」
「…そうなのか…」
可能性があるかぎり、酷な行為だとしてもやる義務があるのだ。
それを理解して、シリウスは黙り込んだ。
彼の、どこか整理しきれないような姿に、私は言葉を続ける。
「本当ですよ、あなたが産まれたとき、確かに幸福を感じました」
「急に何だよ?」
「あなたを守るためなら、何でもできると思えたんです。愛情の賜物ですね」
「はぁ…」
腑に落ちないシリウスに、畳み掛けた。
「だからこそ、あなたを失うのは怖いですよ。誰だって家族を失うのは怖い。
失いたくないものを守るために、人は闘うのです。正しいのはいつだって、自分の正義だけなんですから」
「うん…」