秘要書斎
□待ち人
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こんな日が来なければと、二度と会えなければいいと、ずっとそう思っていた。
ラクサスが1枚の書類を手にして私の前に立つ。
バンッと叩きつけられた書面に目を通し、血の気が引くのを感じた。
「……ミルザム、知っていたのか」
「まさか」
「っ、嘘を吐くな」
「本当ですよ、私は全く知りませんでした」
そうだ、私は知らない。
ジョンが人狼であることも…否、『ジョン・ルーピン』という存在も既に知らないのだ。
「……次の日曜だ。何も考えるな」
「もちろんです。その日はシリウスも連れて行って構いませんか?」
「あぁ。だが何故?」
「そろそろあの子にも現場を見せるべきでしょう」
ラクサスは黙って頷いた。
彼の息子も同じくらいの時から同伴しているので、頃合いだと思っただろう。
「シリウス、次の日曜は父様と出掛けましょうね」
「うん」
「父様の仕事を見ていても良いし、退屈なら遊んでいても良いですよ」
「ほんとに?ねぇ、どこにいくの?」
キラキラと目を輝かせる息子の頭を撫で、私は先程覚えたばかりの住所を思い浮かべた。
「ずっと向こうの、山の麓です」