秘要書斎
□産声 ―Voice―
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心から待ち望んで得た息子だった。
妻も、ようやく義務が果たせたと安堵していた。
「君も子供も大事なくて何よりでした。
素晴らしい贈り物です、感謝していますよ」
とても幸せで、嬉しくて、産まれたばかりの赤ん坊をこの手に抱き上げた。
「あ……」
こぼれたのは涙だった。
あぁ、何故でしょう?
悲しくて、たまりません。
言葉を持たぬ赤子が、視線でもって語り掛けてきた気がした。
“産まれた”
“願いを背負って”
“離別を背負って”
“怒りを背負って”
“罪を背負って”
“命を背負って”
恐ろしい。
この子は、私とはあまりにも違いすぎる。
私はもしかしたら息子を、血を分けた息子をこの手に掛けてしまうのでは――
「…あなた、どうなさいましたか?」
「え……その、あまりにも嬉しくてですね…」
そう言い繕うと、「そうですか」とあっさり納得された。
彼女は、まったく何にも気付いていない。
この言い知れぬ悲しさ、寂寥感、恐怖――
私の勘は決して鋭くない。
それでも、今ほど自分の感覚が間違っていてほしいと願ったことはなかった。