リクエストのやつ

□不倶戴天
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臨也が静雄を『嫌わなければいけない』と思ったのは、もう随分昔だ。
記憶が正しければ、高校2年の冬のこと。

その日は静雄と校舎内で遅くまで喧嘩をして、どさくさに紛れて先に帰っていた。
今頃、真っ暗な校舎内で必死に俺を探しているんだろうと考えると馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
そんなことを思いながら、街灯がほの暗く照らす道を歩んでいた時だった。

後ろに気配があるのに気がついた。
静雄はこんなに静かに歩けない。だとすれば、普通の通行人だろう。
そんなことを考えた矢先だった。

突然、背後から腕が伸びた。
驚き避けようとしたものの、そのまま手首を捉えられナイフすら取り出せなくなる。
誰だ、と振り返り、その顔に見覚えがあるのに気がついた。

「…何のつもりだ?」

臨也は威嚇するかのように低く言った。
焦りはしていないものの、相手の手を振りほどけない自身の非力を呪いたくなる。

相手は、先日情報が欲しいと言ってきた隣のクラスの男子だった。
彼女がここ最近上の空だったり一緒に帰るのを断られたりで、浮気していないか確かめて欲しい、ということだった気がする。
確か、その彼女は結局俺の取り巻きで、そのせいでした、という結末だったわけだ。

「お前が、俺の彼女を自分の元に引き込んだんじゃねぇだろうな…!」

「は?そんなわけ無いだろ、逆恨みだよ」

激昂の窺える声に嘲笑を返してやれば、臨也の手首を掴む手に更に力が籠った。
痛い。シズちゃんに捕まれるよりかは幾分痛くはないけれど、赤くなっているのは確実だろう。
折角調べてやったのに、恩を仇で返されるのは一番面倒臭い。
まぁ、金はきちんともらったけれど。

「手前、胡散臭いんだよ…!人のこと馬鹿にしやがって!」

「馬鹿にしてなんかないよ?俺は君がどんなに惨めだろうと馬鹿らしかろうと苛立たしかろうと、人間でいる間は君も愛してるからね」

中身もないような台詞を吐いて、臨也はケラケラと笑って見せた。
それが相手の気に触らない筈がない。
あ、馬鹿なことしてる。そんな自覚はすぐにやってきた。

突然、足を掬われてバランスを崩した。
そのまま蹴ろうと足が繰り出されるが、手首を捕まれたままでは上手く避けることすら出来ない。
痛いだろうが、シズちゃんに打ちのめされるよりマシ。
そう思って、一発くらい受けてやろうと受け身の体勢をとった時だった。


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