15万打リクエスト

□プールサイド・ハピネス
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日常と化した、来神学園での風景。
勿論、その日常に慣れない人間の方が多いのだが、渦中の二人にはそんなこと関係ない。

「シズちゃんは、相変わらずしぶといなぁ!そのしぶとさ、もっと向けるべきものがあるんじゃないの?」

「何言ってんだ、手前が何もして来なけりゃもっといい使い道見つかってるに決まってるだろ!!」

がなる荒々しい声に臨也は臆することなく教室の窓を飛び越えた。それを追って、静雄も窓を飛び越える。

臨也と静雄は、どうしても喧嘩仲から抜け出せない犬猿の仲だ。
臨也も、色々な私情によりどうにかしたいとは思っているのだが、どうにも上手くいかない。
口を開けば挑発の言葉。少し心を開いてみても、気持ち悪いと一蹴され。
でも、出来るならもう少し仲良くなりたいのだ。

…喧嘩相手であれど、彼に向ける恋愛感情は間違いなく本物なのだから。


追い掛けてくる静雄を撒き、臨也は校庭へ走った。
プールの近場のフェンスへ隠れ、鬼の形相で臨也を探す静雄が通り過ぎたところで、プールのフェンスを飛び越える。
既にプール開きの準備が整ったプールには、塩素消毒の施された水がなみなみと注がれ、吹く風に水面を涼しげに揺らしていた。
…正直、プールは好きではない。泳げない訳ではないが、何となく好かないのだ。
そんなことを思いながら、プールサイドで静雄が何処から来るかを見張りがてら視線を巡らせていた時だった。

背後で、ひゅう、と風を切る音がした。何事かと振り返った瞬間。
があん、と勢いよく身体にぶつかってきたのは、開け放たれたままの体育器具庫にあったはずの掃除用具入れ。
勿論、突然そんなものに体当たりされては真っ直ぐ立っていられるはずもなく。

臨也は激しく水飛沫をあげて、掃除用具入れごとプールに落下した。

鼻に水が入った。驚いたせいで開けっはなしだった口には容赦なく水が入り込んでくる。
直ぐに浮き上がろうとしても、目の前には掃除用具入れ。しかも衝撃で中の箒が見上げた水面に散らばっている。
足だけでもつけばよかったのだが、生憎臨也の身長を越える深さのプールだったため、浮き上がろともがけば。
ぴきん、と足に痛みが走った。

――最悪。つった。
ああ、これは本格的にやばくないか?そんな思いが胸を過る。

足のつかないプール。
視界には水面に浮かぶ箒と掃除用具入れの壁。
服は水を吸ってずっしりと重たい。
呼吸も出来ない。息を吸えばもれなく水が入ってくる。しかも鼻が痛い。
おまけに足をつるなんて、どういうことだ。不運にも程がある。格好悪い。

ああ、苦しい。本当に苦しい。
助けて、シズちゃん。君のせいだ。
…ああ、でもシズちゃんが助けてくれるわけないか、あんな怖い顔してたし。
やばい。無理。もう無理。息できない。

意識が剥ぎ取られて浮かんでいく。
行かないで、と手を伸ばすも視界は徐々に暗くなっていき、残っていた空気が喉から漏れた。
がぼり、と気泡が水を裂いて上る姿を霞む目に焼き付けながら――
ふ、と意識が途絶えた。



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