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□道化師は殺された
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伸ばされた手は、臨也の首を掴んだ。
びく、と身体を跳ねさせた臨也など構わず、静雄の指に力が籠っていき、ひゅ、と狭い気道を空気が掠める。

「っ…はっ…ぁ…!」

静雄はただその光景をもの寂しげに見ていた。
そんな顔をしたいのは此方の方だ。臨也はそう言いたげに静雄の腕を引っ掻くも、戦慄く手では掠り傷すらつけられない。
苦しい。苦しい。苦しい。もがいても助けてくれるものは何一つ無い。

「ひぅ、ぐ………っんぅ――!」

苦し気に歪む唇に、唐突に唇が重ねられた。それは臨也の呼吸を更に奪い、意識を朦朧とさせていく。
必死に空気を取り入れようと開け放つ口内へ、静雄の舌が侵入してきた。
くちゅり、淫猥じみた音が、荒い吐息に混じって空間に響いて消える。

「っ…ぁ……か、はっ…」

歯列をなぞり、舌を吸い上げ、唇を紅を引くように丹念に舐めあげ。
抵抗すら出来ずに酸素を求めて口を開いている姿は、自分に全てを預けているような錯覚を覚えて、何処か嬉々とした気分になった。

唇を離し、口角を伝う唾液を舐めとる。
生理的な涙を浮かべ必死に呼吸をしている臨也の耳元へ、静雄は唇を寄せた。

「手前は俺のものだ。俺だけを見て、俺だけを好きになれ。俺だけを必要として、俺だけに頼れ…。」

ようやく、静雄の手が首から離れた。
息が出来なかった反動のように喉を鳴らして酸素を取り込む臨也を、静雄は抱き締める。
強く、強く、愛おしむように、強く。


「愛してる――」


この手で壊してやりたい。
意識ごと奪って、俺だけのものにしてやりたい。
この細い首を絞めて呼吸を止めることも、況してや骨を折ってしまうことも、俺には容易いことなのだ。
…でも、それでは足りない。
笑う顔も、怒る顔も、泣き顔も、苦痛にもがく顔も、罵る声も、苦し気な呼吸も、悲鳴も、何もかもが愛しいのだから。

「お…れは…だい、きらいだ…!」

歪んだ唇から紡がれた酷く掠れた声を耳に焼き付け、静雄はプレートだけ持つと臨也を置いて寝室を出た。

部屋に残された臨也は、霞む視界で天井を眺める。ぼんやりと頭が覚醒しないまま、首から繋がる鎖を指で手繰った。
千切れない鎖。いつまでこうして繋がれているのか、いつまで彼が俺に執着し続けるのかは分からない。

…怖い。
怖い。怖い。怖い。
シズちゃんが、怖い。
以前は全く抱かなかった感情に、押し潰されてしまいそうで。

離して。
俺を、解放して―――





(もう、シズちゃんが愛した恐怖を抱かない俺は、君の求める俺は、何処にもいないんだよ。)

END
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