15万打リクエスト

□道化師は殺された
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「好きだ。臨也」

臨也を愛しいと思い始めたのはいつだっただろう。
第一印象は最悪だった。あんなにも初っぱなから苛立ちを植え付けられた奴は初めてだったから。
…でも、何がどう転がったのか。
俺は、そんな奴を愛しく感じるようになっていた。
きっと、俺を心底怖がることなく接してくれた、唯一の人間だったから。

――だから、告白という形に至ったのだけれど。


「…何言ってるの?気持ち悪い」


返ってきたのは紛れもなく、“喧嘩相手”の言葉だった。



朝食のパンとコーヒーを載せたプレートを片手に、寝室の扉を開ける。
そこには、見慣れた奴の姿があった。
漆黒の濡羽色の髪に、白い肌。服の上からでも明らかな痩身は、しなやかなこと他ならない。

「臨也」

名を呼べば、その瞼がゆっくりと開いた。赤い瞳は声の主を捉え、寝惚けたままその唇を開く。

「…シズちゃん」

んん、と小さく唸った臨也は上半身を起こし、静雄に手渡されたプレートを受け取ると、ベッドの隣の机に置いた。
臨也の首とベッドの柵を繋ぐ鎖が、かちゃん、と音を立てる。
臨也はその音に僅かに眉をしかめるも、出されたコーヒーを何の支障も無く啜った。
それから、低い声で静雄に問いかけた。

「今日こそ解放する気になった?」


ある日唐突に、情報屋折原臨也は池袋から姿を消した。
それは、新宿の自宅兼事務所も同様。彼の秘書が、最低限の事務処理はしているらしいが。
そしてその日、平和島静雄の家は、一人暮らしではなくなった。
折原臨也が、彼の家に住むことになったからだ。
外出禁止。通信手段は全て絶ち、部屋を出る際は静雄も同伴。首には犬につけるような首輪をつけ。
――監禁、という形で。


「何だよ、それ」

「言葉そのままだろ。俺は早く家に帰りたいんだよ。こんな生活したくないし」

そう言った臨也の声には棘はない。何処か諦めたような、疲れはてたような、そんな声で。
怒らせたくない…そんな色すら、孕んでいた。


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