15万打リクエスト

□情意サミット
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「や、だ!!」

一際痛々しい声が、静雄の鼓膜を揺らした。
驚いて臨也の顔を見れば、酷く泣きそうに歪んでいて。
そんなに痛かったのだろうか、そう焦りながら、体勢を直した時だった。
静雄の顔を見た臨也の顔が一層引きつり、途端に金切り声が冷たい路地に響き渡った。

「離して!やだ!いや!やだあ!!」

おかしい。おかしい。
こんなのは臨也ではない。臨也はいつも飄々として、他人を馬鹿にしているような殺しても死ななさそうな奴で。こんな、脆い人間なんかとはほど遠い奴で…

と、潤んだ瞳から滴が臨也の頬を滑り落ちた。
ただひたすらに響く声は、泣き声を孕んで一層胸を抉る。

――その首筋に、切り傷があることに気がついた。それに目が向けば、ジャケットに隠れた手首にも包帯が巻かれていることに気がつく。

その身体を抱き締めた。
やだ、やめて、と暴れる臨也は見ていられなくて。その傷痕の理由が怖くて。

「臨也、大丈夫だ、何もしねぇから…」

「いやだぁっ、離してよ…っ!怖い、やだ…!」

「…臨也っ、俺は静雄だ、手前が怖がるような奴じゃねぇだろ、なぁ…!」

必死だった。どうしてかは分からない。
ただ、こんな臨也は見ていたくなかった。見ていられなかった。胸がひたすらに痛かったから。

「だから、臨也…!手前の嫌いなシズちゃん、だろうがよ、気持ち悪いって殴れば良いだろ…臨也…ッ」

ぴく、と、唐突に暴れる腕が止まった。
ようやく落ち着いたのだろうか、と臨也の顔を窺おうとしたものの。
その細い指が、静雄の服を掴んだ。

「……シズちゃん…?」

「…あぁ、俺だ」

答えて、震える臨也の背を優しく擦ってやれば、臨也の唇から先刻とは違う落ち着いた嗚咽が響き出した。
ひっく。えっく。響く嗚咽は、服を掴む指は、酷く儚いものに見えて。
静雄は、泣き疲れた臨也が腕の中で微睡みに堕ちるまで、優しく抱き締めていた。



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