15万打リクエスト

□Loving You
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走って、走って、追い掛けてくる静雄を引き離して、どうしようもなくなって立ち止まる。
何処へ行こう。このまま易々と帰るなんて出来ない。でも財布も携帯も置いてきてしまった。いつものジャケットも家に置き去り。

シズちゃんが悪いんだ。
大切な日なのに。料理も作って、ずっと寝ないで待ってたのに。
俺との時間より大切にしなきゃならない物は何?そんなに大切なの?
…でも、八つ当たりだ。知っている。分かっている。

視界が歪んで、俯けば足元がじわりとぼやけた。
ぱたり、と落ちた滴が、アスファルトの黒に水玉を生み出す。
かっこ悪い。意地を張った挙げ句に泣いてしまうなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
落ち着くまでじっとしていよう。それから何処か匿ってもらう場所を探しに行くか…


「臨也?」

唐突に名前を呼ばれた。
聞き慣れた声に振り返れば、そこに居たのは昔馴染みの姿。

「ドタチン…、こんな夜中に何してるの?暇人だね」

シズちゃんじゃなくて良かった。そう思いながら、臨也は誤魔化すように軽口を叩きつつ然り気無く溢れた涙を拭う。
しかし流石に見られていたらしく、心配そうな顔に笑顔を浮かべた門田の手が臨也の頭をくしゃりと撫でた。

「臨也も何してるんだよ、上着も着ずにこんなところにいるなんて」

「ちょっと、ね…」

笑おうとしたのに、涙が込み上げてきてしまう。胸はキリキリと痛みを嘆いて、溢れる涙を堪えることすらさせてくれない。後から後から涙が頬を滑り落ちた。
何があったのか問い掛けるべきかそっとしておくべきか戸惑った様子を覗かせる門田へ、臨也は口を開いた。

「ドタチンの家、行っても良い?」

「別に、良いけど…。静雄と喧嘩でもしたのか?」

ズキン。刺さるような痛みが胸を抉る。
覗き込む門田の目は奥の奥まで優しくて、促されるように小さく開いた唇からは、震えた声が溢れた。

「――っ、だって、シズちゃん、が…っ
俺、待って、た…のにっ、帰ってこな、くて…ぇっ」

涙が止まらなかった。息が詰まって、25も近い大人だと言うのに子供みたく泣いてしまって。
甘える誰かが欲しかった。なのに一番甘えたい人には何一つ素直になれない自分が腹立たしくて仕方がなかった。



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