15万打リクエスト

□Loving You
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玄関で、臨也は凍りついていた。
男しか住んでいないこの家。それなのに、玄関に見慣れない女物のブーツが置かれていたのだから。

なんで。どうして。誰の。
呑み込みたくない状況に、頭が錯乱する。
だって、もしかしたらこれはシズちゃんが連れてきた、

「先輩、来客が来ています。接待を願います。」

「ん?ああ、今行く」

…シズちゃんが連れてきた、恋人なのかもしれないのだから。



昨日、臨也はこの静雄と二人で暮らす家を飛び出した。
1年前から同居し始めて、時には家具を壊しそうになったり壊したりしながらも、どうにか普通の生活を送っていた。
男女のように結婚でも出来ればけじめもつけられたのかもしれないが、生憎二人とも男だ。パートナーシップであろうが何だろうが、日本では同性同士の婚姻は許されない。
でも、構わないとも思えるのは、きっと現状に満足しているからだろう。

…でも、家を飛び出した。
原因は、酷く単純なこと。

「帰ってきてくれるって言ったじゃん!」

「ごめんって…」

その日は、静雄が臨也にプロポーズして1年目の日だった。付き合い始めて4年のこと。
結婚は出来ないけど、一緒に住めば変わらねぇよな?
恥ずかしそうに紡がれたそんな言葉を、自分がどれ程喜んだことか。
大切で大切で仕方がない日。記念日、という言葉で片付けられないくらい沢山の想いが詰まった日。
だから、今日は仕事が終わったら直ぐ帰ってきてね、と約束したのだ。
…なのに。

「だって、日付変わってから帰ってくるとか…っ
料理も冷めちゃったし…!」

「だから!ごめんって言ってるだろ、俺だって用事があったんだよ!」

分かっている。これはエゴだ。自分のことを中心にしか考えられない、小学生さながらのエゴイズム。
でも。でも。

「俺、シズちゃんずっと待ってて…っ」

瞼の奥が、熱く、重たくなってくる。でも泣きそうなのを悟られたくなくて、踵を返して玄関に走った。
引き止める静雄の声に、胸を叩いて、酷い、と泣き喚きたかった。どうして遅くなったの、と問い質したかった。
でも、馬鹿みたいに高いプライドが臨也の甘えたい心の邪魔をする。

「シズちゃんも俺を待てば良いよ!」

「臨也!」

それだけ叫んで、臨也は夜の街へ走り出た。



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